シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「父君、お呼びにより参上致しました」

謁見室の床に跪き、恭しく頭を下げるアラン。

さっきまで放っていた殺気がまだ体に残る。

その僅かな名残に、周りの兵が息を飲み身動ぎをした。

ここ数日間、殺気が完全に消えたことがない。

国王はそんなアランを優しく見つめた。

その表情は何処と無く嬉しそうにも見える。


「皆は下がっておれ」


国王が命じると、周りを囲んでいた兵や数人の大臣が静かに部屋を出ていった。

謁見室の中は国王とアランだけ。他には誰もいない。

一呼吸おくと、国王が静かに話始めた。


「アラン、今この時期にどうかと思ったのじゃが、ましてや、今のそなたは非常に心が乱れておる。その為、冷静な判断が出来ぬのではないかとも思った。この件に関しては、周辺諸国との交流や交渉もある。そういったことを含め、皇后とも何度も相談した。結果、そうすることが何よりも国のため、アラン、そなたのためだと判断したのじゃ」


国王は椅子から立ち上がり、台の上に掛けてある布を取った。

そこには古びた箱がひとつ。


「これをそなたに授けよう」

「父君、それは―――」

「今、そなたの心を乱している案件のために使うが良い。言うておくが、正式な儀式の元に使うのが本来の決まりじゃ。それは分かって居ろうな?」

「承知致しております」

「あの者のことは、そなたの従兄弟も大変気にかけておる。それにアレも大層気にしておる。いろいろ考え合わせるに、まるで古き預言のような者じゃ。それに気付いた輩が、この先もあの者を狙うじゃろう。苦労が尽きぬかも知れん」

「それでも私は、あの者を欲しております。愛しくてたまらないのです。この身が滅ぶまで、守り抜く覚悟は既に出来ております。もし、お許しを頂けるのであれば、あの者を正式に迎え入れたいのですが」

「この箱を譲り渡すということは、そなたに其れの決定権を譲るということじゃ。自由にするが良い。しかし、あの者の承諾を得られなければ他の手を考えねばならぬ。その時は、分かっておろうな?」

「承知しております」


アランは箱を恭しく受け取り、退室の挨拶をした。

廊下を執務室に向かっていると、パトリックが長官室から出てきた。

腕に抱えられた箱を見ると、みるみる顔色が変わっていく。


「アラン、それは―――」

「今、父君から譲り受けた。パトリック、私は彼女には弱い。これを使うときは、きちんと手順を踏むつもりだ」

「それは、私に遠慮しなくてもいい、と言っているようなものだぞ。良いのか?」

不敵な笑みを浮かべるパトリック。


「・・・良い。だが、誰にも渡さぬ」
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