シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
バトラーは顎鬚を震わし、優しい瞳でエミリーを見つめた。

「いえ、そうではございません。私共が気に掛けているのは―――
・・・いや、何でもございません。あー・・そこの警備員。私の代わりに少しの間ここを頼む。エミリー様、すぐに戻ります」

頭を丁寧に下げて、呼びに来たメイドと一緒にいそいそと出ていった。


『どういうことだ。此方には来られない決まりになっているではないか』

廊下で、厳しい声で言っているのが聞こえてくる。

『でも、バトラー様・・・』

声がだんだん遠のいていく。


良かったわ。今回は少しゆっくり用件を済ませてくるみたい。

なんだか大変な出来事が起きたみたいだし・・・。

何時になくバトラーの声が荒れていた。

部屋の中は警備員とエミリーの二人きり。


この警備員の人、見たことないけれど、いつ入ったのかしら。

緑がかった黒髪にグリーンの瞳、初めて見るわ。

この国の人じゃないのかしら・・・。



”エミリー様、宜しいですか。

ギディオンの国では、髪の色でその人の身分が大体分かります。

銀は言わずと知れた王族の方のものです。皇后様になられた方の髪色が何色であっても、お子様は銀髪でお生まれになります。

銀髪の子を産んだ方が皇后様になられる・・・と言ったほうが宜しいでしょうか。

金は一般庶民にもおりますが少数です。貴族の方が多いので、金は貴族の方と思っていた方が宜しいでしょう。

黒は、私を始め一番多い髪の色ですが、一般庶民のものです。

男性は警備系の仕事に就く者が多いです。自営を営む者も多いですが、城の兵をご覧になればお分かりになるでしょう。

ブラウンや赤も一般庶民のものです。

何故か、メイドや使用人の仕事をしている者が多いのが特徴です。

エミリー様もこれを参考に、これから出会う方の身分を判断されると良いでしょう。

ちなみに瞳ですが、ブルーが一番多く。ご存知かと思いますが、王族の方のブルーは一味違って深みがございます。

次にブラウン。エミリー様のような紫もおりますが―――”



ウォルターが勉学の時に教えてくれたことが思い出される。あの時、この国にグリーンの瞳はいないと言っていたわ。


その警備員は扉に耳を当てて真剣な表情でひとつ頷くと、不可解な行動を取り始めた。

つかつかと窓の傍に歩いていって、身を乗り出して下を見たり上を見たりしている。

何を考えているのか、腰に手を当ててじっとその場に立ったまま。

「よし・・・」小声で呟くのが聞こえ、おもむろに此方に走り寄ってきた。


「一緒に来ていただこうか」
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