シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「気分が優れないだろう?ドレスは次回にした方がいいな」

エミリーの顔色を伺うようにブラウンの瞳が忙しく動く。

「でも、お店の方が朝早くから準備して下さったのでしょう?中止にしてしまったら悪いです。わたしなら大丈夫ですから。美しい布を見るだけでも、気分が明るくなります。それにわたし、いろんなドレスを見たいです」


この国に来て、ショッピングが出来るなんて初めてのこと。

この屋敷の中という制限はあったとしても、実は少し楽しみにしていた。

それに、せっかく準備してくれた仕立屋さんに、今日は中止だなんてとても言えない。それは残念すぎる。

さっきのことには驚いたけれど、今はこうして警備の人がたくさんいるから、もう大丈夫。

いつもシルヴァと二人きりの部屋に、沢山人がいることもあって、普段から持っていた警戒心がすっかり薄れてしまっていた。

「実は、楽しみにしていたんです」

堅かった表情に、自然に笑みが零れてしまう。

それを見たシルヴァの表情が一気に柔らかくなった。

目を細め、嬉しそうに微笑むとエミリーの隣に座った。

「分かった。あなたの言う通りにしよう・・・あなたの笑顔が見られて、嬉しいよ」

耳元で甘く囁き、白くすべすべした頬に唇を甘く押し付けた。

「・・・っ!」

突然頬を襲った感触に、ビクッと身体を震わせ、サッと顔をそむけて逃げるエミリー。

更に唇を狙ってくるそれを、避けようと手を顔の前にかざした。

しかしその手を掴み、周りに人がたくさんいるのに、構わずに迫ってくる。

「ぃや、やめて下さい・・・」

逃げ場を失い、ソファに身体が押し付けられる。

唇が頬から首筋に移動していく。

「ぃゃ・・・」アメジストの瞳に涙が滲む。

その様子を、嫌な笑いを浮かべて見ている警備員や使用人。


二人の周りを囲むその中で、明らかに様子の違う男が二人。

焦ったように息を飲み、身動いでいた。

そのうちの一人が一歩前に踏み出す。


ガタンッ!

部屋の中に突然響く大きな音。その音に誰もが振り返り、動きを止めた。

当然シルヴァもソファから体を起こした。


「これはとんだ粗相を。申し訳御座いません」

焦ったように大きな声を出し、年輩の使用人が倒れた椅子を直していた。


「シルヴァ様、ここには若い者もおります。ご自粛を」

その使用人がブラウンの瞳をじっと見つめた。


―――今、一瞬気圧されるような鋭い目をした。この男、どこかで会ったような・・・シルヴァは怪しむように使用人の顔を見つめた。


「お前、どこかで―――」
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