シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
『エミリー!大丈夫かい?エミリー!?』

扉の外でシルヴァの焦った声が響いている。

扉をドンドンと叩く音。ここに入り込んで、もう随分と時が経ってしまっていた。心配するのも無理はない。

『シルヴァ様、いかがなされましたか?』


誰かの声が聞こえる。さっきの年輩の人の声みたいだけど。

どうしよう、大きな騒ぎになってしまったわ。


『彼女が出てこないんだ。中で倒れているんじゃ?』

気が気でないといった感じのシルヴァの声。

『どのくらい経っておりますか?』

『多分、15分くらいだ。いや、もっと長いか』

今度は年輩の使用人の声がノック音と供に聞こえてきた。

『エミリー様!?大丈夫で御座いますか?エミリー様御返事をして下さい!・・・シルヴァ様、これはもう扉を壊すしか御座いません。工具を持って参りますので暫しお待ちを』

『待て!工具なんか待っておれん。今すぐ打ち破れ!』


エミリーは扉に背を預けて座り込んでいた身体を、ゆっくり起こした。

泣いたせいか、鏡に映る瞼は赤く腫れている。

これでは出て行っても心配かけてしまう。

でも、これ以上皆に面倒をかけられない・・・

意を決して取っ手に手を伸ばした。


『落ちついて下さい。中で倒れておられるならば、扉のすぐそこかもしれません。打ち破るのは危険です』


カチャッと音をさせて開けられる扉。


そこにいた皆が一斉に注目した。

使用人二人と警備員に腕と体を制されてるシルヴァ。それに赤毛のメイドの姿もあった。


「ごめんなさい。少し気分が悪かったものですから。お騒がせしてすみません」

頭を下げているとシルヴァが腕を振り切って駆けよってきた。

「大丈夫なのか?」

「はい。心配掛けてごめんなさい」

シルヴァから隠すように瞳を伏せた。



ちょうど同じ頃、違う場所で、涙を零して瞳を真っ赤にしている者が、もう一人いた。

”もうこの部屋は使わぬ。本日中に荷を纏めて廊下に出しておけ”

そう命じられたのは昨日の朝。

昨日一日かけて纏めておいた荷物は、今日になって無くなっていた。

何処に持っていかれたのか、まさか、もう捨ててしまったのか。

私から見ても、あの方は特別な感情を抱いているように感じられたのに。

もっと探して、きっと連れ戻して下さると思っていたのに。

あっさりと”もう使わない”だなんて。冷たすぎるわ。

もうここには戻られないということ。もうお会いできないということ。

この部屋のあちこちに思い出が染み着いている。

この椅子もベッドもテーブルも。

艶めく髪と微笑みが浮かび上がっては消える。


「エミリー様・・・」

テーブルの上には涙の雫がぽたぽたと落ちた。
< 145 / 458 >

この作品をシェア

pagetop