シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
馬車の風格と、降り立った人物の恐ろしい程の威厳。

それに自分に命じた兵士らしき者の有無を言わせぬ迫力に、その場にいた警備員二人が凍りついたように動けなくなった。

「何をしている。早く取り次げ」

「は・・・はい!お待ち下さい!」

慌てて屋敷の中に消える警備員。

それを見届けると、三人の兵士がお互いに目配せをして庭の方へ歩いていった。

暫くすると、品の良い執事らしき人物が応対に出てきた。

「バトラー、久しぶりだな」

「これは、これは―――本家より知らせを受けておりましたが、まさか本日に、お二人が本当に来られるとは、思いもよりませんでした。玄関先で失礼ですが、例の物を拝見させていただきます」

バトラーは瞳を不敵に煌かせながら丁寧に頭を下げた。

「失礼な者だな!この方をどなただと思っておるのだ!」

兵士の一人が堪らずに声を荒げた。

「存じております。だからこそ、でございます。お二人はご存じのことでしょう」

「分かっておる。例の物を出せ」

脇に控えていた兵士が書類箱から紙の束を取り出した。

「此方でございます。ご確認を」

差し出された紙の束を入念にめくって目を通すと、ため息を吐いた。

「確かに・・・。よく集められましたな。さぁ、どうぞお入りください。お前は此方の方々を応接の間にご案内して差し上げろ。くれぐれも、粗相のないようにな。ただ今シルヴァ様を呼んで参ります」

命じられたメイドは瞳を瞬かせ、ずらっと並んでいる客人を仰ぎ見た。

「こ・・・此方へどうぞ・・・」



その頃、エミリーはリリアに薦められたドレスの試着をしていた。

カーテンの中、鏡に映る姿はリリアの言うとおり、このドレスがよく似合っている。

襟ぐりが広く開いたこのドレスは、シンプルなもので、今まで着たことがないタイプの物だった。

髪を束ねてみると、少し大人っぽく見える。

角度を変えて鏡に映していると、首筋に、ちょうど耳の下辺りが少し赤くなっているのが見えた。

―――え?・・・これって、まさか。さっきの・・・。


ソファの上での出来事が思い返された。

あの時妙に首が熱く感じられたのは、これだったの?

まだ、唇も許していないのに・・・。

こんなの人に見られたら、何もかも許したと思われてしまうわ。

首につけられた赤い印を指で消すように強く何度も擦ってみた。

しかし、白い肌に赤く映える印はそんなことで消えるはずもなく、髪を下ろして耳の下を隠すように撫でつけた。


「エミリー様、サイズはいかがですか?」

「えぇ、ちょうど良いです」

カーテンを開けたリリアが嬉しそうに微笑んで、手を髪に伸ばしてきた。

「髪をアップにすればもっと素敵ですよ」
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