シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「やめて。髪には触らないで・・・」

伸びてきたリリアの手を振り払って、首のあたりの髪をサッと抑えた。

「申し訳ございません・・・」

突然のことにびっくりしたリリアは、伸ばした手を引きながら恐縮したように身体を縮めた。

「お・・思った通り、よくお似合いですわ。これならシルヴァ様も惚れ直すことは間違いございません」

すぐに気を取り直し、営業スマイルを浮かべるリリア。

その言葉に、当のシルヴァはどんな表情をしているのかと、ソファの方をそっと覗き見た。

するとそこには、店主が一人満面の笑みを浮かべて座っているだけで、シルヴァの姿が無い。

部屋の中を見廻すとなんだかさっきまでと様子が違う。

五人の男たちが扉の前にいたのに、ソファ近くの窓際の方に移動していた。


「シルヴァ様は、さきほどバトラー様に呼ばれて部屋を出ていかれました。ドレスはお任せするそうでございます。店主が、あちらに最適な布の組み合わせをご用意いたしました。あ、そのままで宜しいですから。ささ、どうぞ」

リリアに促されるまま、ソファに座ってテーブルの上に広げられた布の切れ端を眺めた。

どの組み合わせも素敵で、迷ってしまう。

デザイン画と見比べながら夢中で切れ端を見るエミリー。

男たちが再び動いたことに気付きもしない。

いつの間にか、エミリーの座っているソファを取り囲むような陣形を取っていた。


店主の満面の笑みの額に汗が光る。

リリアは自分の背後にまわってきた男を訝しげに眺めると、その鋭い眼光に息を飲み、黙り込んだ。

「あ・・・あの・・・」

店主が口を開くと、エミリーの背後で眼光が鋭く光る。

その瞳は”余計なことを言うな”と言っていた。

「店主さん?大丈夫ですか?なんだか、気分が悪そうですけど・・・そうだわ。お水をお持ちしましょうか」

メイドを呼びに立ち上がろうとするエミリー。

「あぁ・・・お待ち下さい。私なら平気ですから、そのままで・・・。申し訳ございません」

店主は慌てて腕を伸ばしてそれを制した。


―――何だ?この男たちは。

最初から不気味だとは思っていたが・・・

エミリー様が動くと一緒に身動ぎをする。

一体狙いは何だ?マックもリリアも怯えている。

もし、エミリー様に何かあったら、私の責任か?


店主は頭の中でぐるぐると考えを巡らせながら、男たちから放たれる痛いくらいの視線を避けるように、窓の外を見た。

その視線の先に再びぎょっとし、慌てて部屋の中に戻した。

窓の外から広間の中を窺うように見ている男と、視線が合ってしまった。

その男は、兵士のような服を着ている。

目の前の不気味な男たちと外の兵士。


一体、何が起こっているんだ・・・?
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