シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
部屋に充満する冷たい殺気を含んだ空気に、気丈にも立ち向かうシルヴァ。

これを最後と決め、気力を振り絞って目の前の威厳ある瞳と視線を合わせた。

ピリピリと刺すような視線に耐え、何とか睨み付けるも、あまりの威厳に視線が自然に逸れてしまう。

それでも何とか気を振るい立たせ、負けそうになるのを必死で堪えた。

ここで負けていては、月の乙女を手に入れてもサルマンの悲願など、到底叶えることは出来そうもない。



「その者は、あなた様の主ではないと存じますが、腕にリングを嵌めております・・・何よりも、誓いをたてた証となりましょう」

唇をゆがめて不敵な笑みを作り、額に汗を滲ませながらも勝ち誇ったようにアランを見た。


「我が主は気高い。それに、少々頑固でもある。普通のご令嬢とは違い、如何なる者が相手でも嫌なことは嫌と、自らの意思をはっきりと申し伝える。出会ったばかりの君と大人しくリングの誓いをするとは、とても思えぬ」


「仰せの通り・・・あなた様が主と申される高貴なお方が、出会ったばかりのこの私と、リングの誓いなどをするはずも御座いません・・・お分かりになられましたか?ここには・・あなた様が、お探しするような高貴なお方は、居られませんので、どうぞお引き取り下さい」

ブルーの瞳を睨みながら、やっとの思いで言い切り、シルヴァは力尽きたように頭を深く下げた。


その言葉を聞き、パトリックの堅く閉じられていた口元が、フッと緩む。


「どうやら君の申す通り、ここには我が主は居られぬようだ。だが、帰城する前に君の婚約者のご令嬢に、ご挨拶申し上げたい。ここに連れて参れ」


表情には外交的な笑みを浮かべているが、瞳は鋭い光りを湛えたまま、シルヴァの言うことを信じてる様子は全く無い。



「挨拶など―――何の準備も整えて居りませんので・・・。今は、その、仕立屋と打ち合わせ中でございますれば―――」

自信に満ちていたブラウンの瞳が、少し焦りの色を浮かべ、壁に掛けられている時計に向けられた。



「私が挨拶すると申すに、ここに連れて参ることが出来ぬ、と申すか?」



無言のまま俯き、答えるべき言葉を探すようにブラウンの瞳が忙しく動いている。



その様子を見て不敵な笑みを浮かべるパトリック。


「アラン、彼は今、とても気分が悪いようだ。君の問いにも答えられない程に。これでは、立ち上がることも無理だな?」



ゆっくりと近付いて、シルヴァの前に沈み込むパトリック。



「顔色が悪い。君はすぐに休んだほうがいい。此方からご令嬢の元に出向きたいが、生憎居場所が分からない。すまないが、案内して貰おうか」
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