シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「ラウル、ご苦労様。丁度シルヴァ殿の案内でそちらに向かうところだ。だが、ご覧の有り様でね。手を貸してくれ」

パトリックが待ちかねていたように、ラウルを仰ぎ見た。

シルヴァは青ざめた顔を上げ、ラウルを見ると目を見開いて悔しげに舌打ちをした。「お前は―――!チッあいつら失敗したか・・・」


ラウルは無言でシルヴァの腕を掴むと、ぐいっと引いて立ち上がらせた。

もう抵抗する力も残っていない体は、あっさりということをきき、ラウルの思うがままに動く。

「アラン様、ご案内致します」

自分で歩く気配のないシルヴァを、引き摺るようにして歩き始める。

廊下を進んでいると、年輩の使用人が頭を下げているのが見えた。

「あなたは!リール殿では御座いませんか。思わぬところでお会い出来、光栄です」

ラウルはピタッと立ち止まると、丁寧に頭を下げた。リールはにこにことラウルを見やり、労いの言葉をかけた。

「君は、ハッシュの息子だね。よく似ている・・・お役目ご苦労さん」

リールの姿を見たシルヴァが、隣で悔しげに舌打ちをした。


「リール、ご苦労。手間をかけた」

「はい。ご命令通りにお守りしておりました。しかし、血気盛んな若い者を抑えるのに、大変苦労致しました。あの方は不思議な魅力を持っておられますな・・・アラン様、暫しお耳をお貸しください。“・・・・・”」

リールの耳打ちにアランの眉がぴくっと動き、前方でよたよたと歩いている背中をじっと見据えた。


「――――っ!!・・・これは、余計なことを申し上げました。アラン様、気をお静め下さい」

アランの瞳が冷たい殺気を放ち、周りの空気が一変していく―――

「アラン様、いけませんぞ」

焦るリール。まさかこれほどとは思っていなかった。

「リール、案ずるな・・・分かっておる」


アメジストの瞳に哀しげな色を宿し、俯く姿が脳裏に浮かぶ。

もっと早く迎えに来れば君をそんな目に合わせなかったのに―――王子である自分が恨めしく思えた。

このまま城に戻れぬならばとシルヴァの元で暮らす決意を固め、塔に戻らないと、このまま城下で暮らすと・・・。

私が迎えの手を伸ばしても素直に取ってくれるか・・・。

アメジストの瞳を伏せ、迎えの手を拒否するように横を向く姿が思い浮かぶ。

果たして彼女は私が来たことをどう思うのか。

愛しさゆえに、不安な気持ちも大きい。私がこんなに惑うとは―――


「アラン様、此方でございます」

広間の入口が兵士たちの手で、静かに両側に開かれた。

ドレスの壁の向こうから漏れ聞こえてくる声。

この数日間焦がれていた想いが体中を駆け巡る。


瞳を閉じて逸る気持ちを落ち着かせ、広間の中へ足を踏み入れた。


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