シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
アランが広間に辿り着く少し前のこと。

エミリーは試着していたドレスを着替えてソファに座っていた。

広間の中はしんと静まり返り、なんだかとても居心地が悪い。

守るよう言われていると言っていた男たちは、ドレスを着替えている最中もカーテンの脇で立っていたし、今も囲むように立っている。

一体誰に守る様に言われたのかしら・・・。まさか、あのグリーンの瞳の人?
去り際に囁かれた言葉が思い返される。


「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」

お茶とお菓子を持って赤毛のメイドが広間に入って来た。

隅に縛り上げられている男を見て、驚いたように固まっている。


「ありがとう。こちらにお願いします」

立ちあがって、手を振り、脇に立っている男の体の間からメイドを覗き見た。

メイドは声のする方をキョロキョロと見廻し、此方を睨むようにして立ち並ぶ男の肩口から覗く白い手を、漸く見つけた。

「あの、もう少し、離れて貰えるといいんですけど・・・」

エミリーが男たちに遠慮がちに言うと、お互い顔を見合わせ、ほんの少し動いてくれた。が、相変わらずまったく広間の向こう側が見えないまま、メイドの姿も見えない。

エミリーはため息を吐くと、諦めたようにソファに座った。


さっきの出来事のせいで、店主もリリアもマックも何とも言えない表情をしていた。

目の前の可憐で美しい娘が巻き起こす出来事は、一般人には到底理解できない。

何故あの方が貸してくれた荷物運びが、この方を守ろうとするのか。

さっきのはこの屋敷の警備員で、この方の味方ではないのか?

何が起こっているんだ?この方は本当は一体何者なんだ?シルヴァ様の大切な方・・・それだけではないのか?そしてこの男たちは・・・?


店主は頭の中に浮かぶ様々なハテナマークをぶつけるように、男たちの大きな背中を見上げた。

するとお茶のトレイが体の間からヌッと出てきた。


「失礼いたします」

どんなに睨んでも、どうにも動かない男たちの体の間を何とか潜り抜け、メイドがテーブルの上にお茶のセットを並べ始めた。

メイドは訝しげな表情で、男たちをチラチラと見ている。

「大丈夫ですか?エミリー様」

「大丈夫・・・ありがとう。ごめんなさい。あとはわたしがしますから、どうぞお仕事に戻ってください」

赤毛のメイドは仕立屋と男たちを一瞥するとエミリーの耳元で囁いた。

「エミリー様、何か御座いましたら、必ずお呼びくださいね。広間の脇の廊下におりますから」

男たちをじろっと睨み、名残惜しげにしながら広間を出ていった。


「リリアさん、マックさんも。どうぞこちらに座って下さい。落ち着きますから、お茶をいただきましょう。リリアさん、お菓子は?」


隣に座ったリリアにお菓子のトレイを薦めていると、広間の扉がスーッと開かれた。
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