シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「でも、アラン様わたしは―――」

首をフルフルと横に振り、留まることなくポロポロと溢れる涙。知らず知らずのうちに手は耳の下を覆い隠していた。


その仕草の意味を見逃さず、アランの気が一瞬昂った。

その一瞬のことに、広間の空気がビリっと震え、成り行きをじっと見入っていた店主の体を大きく震わせた。


「こんなモノは、気にせずとも良い」

首を隠す手を取り、柔らかく微笑むアラン。

アメジストの瞳が驚いたようにゆらゆらと揺れながらアランの瞳を見つめ、手が力なく下げられていく。

哀しげなその目は”どうして知っているの?”と問いかけていた。


「こんなモノがあろうと、例えリングが嵌められたままであろうと、君は私の主だ。私は君を守らねばならぬ。帰らぬと申すなら、私もここで暮らすまでだ」

その言葉に広間の中がざわめき、兵たちが身動ぎをした。

「そんな!それはいけません」


「私がここに暮らすのを駄目と申すのならば、やはり君に帰って貰わねばならぬ。君をここに引き留めるのは、これか?」

ブロンドの髪をふわりと避け、耳の下の紅い印を武骨な指でツッと辿った。

エミリーの細くしなやかな身体がピクリと僅かに震える。


「こんなモノなど、君をここに留める理由になどならぬ」

武骨な手が後頭部を優しく支え、耳元に顔を近づけていく。


「―――っと!・・あー、アラン?すまないが私も彼女と話していいか?」

パトリックはアランの肩に手を置いて、引き剥がすように力を込めた。

「あ、パトリックさん?」

ほんのり染まった頬で、パトリックを仰ぎ見るエミリー。

パトリックはいつもと変わらずに、優しくて甘い微笑みを浮かべている。


「エミリー、その腕のリングはすでに効力を失っている。それに、君に城に戻って貰わないと皆が困るんだ。君が城にいるのといないのでは、城の空気が全く違ってね。城の中がこう・・どんよりと重くなるんだ。これはアラン王子の御機嫌のせいなんだが、私の機嫌のせいでもある。それに、アランの主は―――」

パトリックの体がスーッと沈み込み、跪いて丁寧に頭を下げた。気が付くと部屋の中にいるすべての人が跪いて頭を下げていた。


「――我々の主でもある。皆がお待ちしております。どうか、城にお戻り下さい」


「ぇ・・・ぁ・・・わたし、そんな。皆さん、立ってください。困ります」

「皆、君が帰ると申すまで、あのままだ」

アメジストの瞳が部屋の中を見廻した後、ブルーの瞳をじっと見つめた。

「わたし、ほんとうに帰っても、いいのですか?」

アランはもう一度エミリーの足元に跪くと、両手を握って柔らかく微笑んだ。



「城に戻る、と申してくれるか?」
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