シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「アラン様待ってください。わたしお礼を―――リールさん!」

馬車の入口で外に出ようとする身体を一歩手前で何とか捕まえ、ホッと安堵の息を漏らすアラン。全く油断ならない。


呼び声に、リールが笑顔で馬車に歩み寄ってきた。

「何で御座いましょうか?」

「リールさん、あの時はありがとうございました。あの音は、リールさんなのでしょう?あの時わた」

「はい!私で御座います。あぁ、エミリー様、アラン様がお待ちで御座います。お早く席に戻られた方が宜しいかと存じます」


これ以上は言わせまいと、リールの返事が大きくエミリーの声に被った。アランの気が再び昂るのを恐れてのことだったが、既に遅く、華奢な身体の背後で瞳が冷たく光っている。

アランは無言で席に誘導すると、さっと馬車の扉を閉め「出せ」と短く命じた。

「全く、君は・・・」

馬車の中においてあった毛布を身体にかけ、隣に座るアラン。

「君は目が離せぬ。君の姿が城から消えて、私がどんな思いをしておったか分かっておるか?」

武骨な手で頬にそっと触れ、艶やかなブロンドの髪を優しく梳いた。

「今頃どうしておるか、涙を零しておるのではないかと、夜も眠れぬ日が続いたというに。頼むから傍から離れてはならぬ」

「ぇ・・・?ぁ・・・ごめんなさい・・・どうしても、リールさんにお礼が言いたくて」


耳元の髪を武骨な指で梳くと紅い印が目に入る。

「リールへのお礼とは、これが関係しておるのか?」

髪を梳いていた指を耳の下に滑らせ紅い印をそっと辿った。

この紅い印だけは何とも不愉快極まりない。

リールの話では唇以外は何も奪われていないと言うことだが・・・。

腕が自然に動き、目の前の身体を包み込んでいく。

逃げる余地を与えるようにふんわりと抱き締め、紅い印に触れると、しなやかな身体がぴくっと反応する。

・・・もしや、怖いのか?

「私の腕の中が嫌か?」

紅い印を辿りながら腕の力をさらに緩めると、予想外にも身体の力はフーッと抜けていった。

ほんのりと頬を染め、力なく身体を腕にもたげる姿はアランの理性を掻き消していく。

「良いか。少しの間私が何をしても許せ」

驚いたように見上げる潤んだアメジストの瞳。

そこに映るのは自分の姿のみ。他の誰も映していない。それが堪らなく嬉しい。


後頭部を優しく支えると、戸惑うように愛らしい唇がふるふると震えた。

心配するな、嫌がることは何もしない。


だが、この印だけは・・・これだけは、許せ。


耳元に唇を近付けて囁いた。


「今から私がシルヴァの印を消す。覚悟は良いか?」
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