シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
夕暮れの道を城へと急ぐ黒塗りの馬車。
長い城壁の脇を通り抜け、やがて城門へと辿り着く。
城の敷地の中で、馬車が通るのに気付いた使用人や兵が道に走り寄って来て頭を下げた。
いつも私に向けられる畏敬の表情ではなく、嬉しそうに口元を緩めて馬車を見つめている。
皆私の他に誰が馬車に乗っているのか知っているようだ。
エミリーがメイドではなく異国の少女で、私の塔に住んでいることは、今回の一件で城の者の知れるところとなっている。
氷の王子と呼ばれる私が、一人の娘にこんなに心を砕くとは、皆思ってもいなかっただろう・・・。
”一人の娘にそのように心を砕くなど、王子の威厳が損なわれます”
窘める大臣もいたが、こんなことで私の威厳が無くなるわけはない。
これでエミリーに恋い焦がれ、リングを渡そうなどと思う男はこの城にはいなくなっただろう。これだけは不幸中の幸いと言える。
ただ一人を除いては―――
あの時のパトリックの不敵な笑みが思い返された。
悪いが、この腕の中からは二度と零さぬ。そのつもりで3階の部屋を準備させた。もう誰の手も届かせぬ。
父君へと放った早馬の知らせを漏れ聞いたのか、馬車が玄関に辿り着いた頃には、帰りを待っていた使用人や兵で人垣が出来、塔の方からはメイドたちが出てきて、道を作るように整列していた。
エミリー、皆君の帰りを待っておる。
間違うことなく君の家はここであり、他のどこでもない。
この光景を見せてやりたいが、安らかな寝息を立てるこの眠りは、誰にも妨げることなどできぬ・・・。
アランは腕の中ですやすやと眠るエミリーを起こさないようにそうっと抱き上げた。
腕のリングと首の刻印が皆に見えないよう身体を毛布に包み隠し、ゆっくりと馬車を降りた。
その姿に言葉にならない感嘆の声がさざ波のように広がっていく。
夕日に映える艶めくブロンドの髪、ほんのり薔薇色に染まった頬、閉じられた瞳から窺い知れる長い睫毛と艶々としたピンク色の唇。
アランの腕の中で眠るエミリーの以前にも増して美しく可憐な姿に、集まった者は皆声も出せずにただ見つめていた。
やがて一人の兵士がハッとしたように跪いて頭を下げると、周りにいた数人の者がそれに倣い、次々と跪いていく。
その波はあっという間に辺り一面に広がり、玄関前に集まった人は全てエミリーに敬意の念を放っていた。
メイは、侍女長の隣、メイドの列の一番前で、その光景を万感の思いで見つめていた。
瞳は涙で潤み、鼻を啜りながらも、瞬きもせずにじっと見つめていた。
ほんのさっきまで、こんな風に戻られるなんて一ミリも知らなかったし、信じられなかった。
アラン様は他のご令嬢と帰城されるとばかり思い込んでいた。
そう、こんな風にこの目で確かめるまでは―――
長い城壁の脇を通り抜け、やがて城門へと辿り着く。
城の敷地の中で、馬車が通るのに気付いた使用人や兵が道に走り寄って来て頭を下げた。
いつも私に向けられる畏敬の表情ではなく、嬉しそうに口元を緩めて馬車を見つめている。
皆私の他に誰が馬車に乗っているのか知っているようだ。
エミリーがメイドではなく異国の少女で、私の塔に住んでいることは、今回の一件で城の者の知れるところとなっている。
氷の王子と呼ばれる私が、一人の娘にこんなに心を砕くとは、皆思ってもいなかっただろう・・・。
”一人の娘にそのように心を砕くなど、王子の威厳が損なわれます”
窘める大臣もいたが、こんなことで私の威厳が無くなるわけはない。
これでエミリーに恋い焦がれ、リングを渡そうなどと思う男はこの城にはいなくなっただろう。これだけは不幸中の幸いと言える。
ただ一人を除いては―――
あの時のパトリックの不敵な笑みが思い返された。
悪いが、この腕の中からは二度と零さぬ。そのつもりで3階の部屋を準備させた。もう誰の手も届かせぬ。
父君へと放った早馬の知らせを漏れ聞いたのか、馬車が玄関に辿り着いた頃には、帰りを待っていた使用人や兵で人垣が出来、塔の方からはメイドたちが出てきて、道を作るように整列していた。
エミリー、皆君の帰りを待っておる。
間違うことなく君の家はここであり、他のどこでもない。
この光景を見せてやりたいが、安らかな寝息を立てるこの眠りは、誰にも妨げることなどできぬ・・・。
アランは腕の中ですやすやと眠るエミリーを起こさないようにそうっと抱き上げた。
腕のリングと首の刻印が皆に見えないよう身体を毛布に包み隠し、ゆっくりと馬車を降りた。
その姿に言葉にならない感嘆の声がさざ波のように広がっていく。
夕日に映える艶めくブロンドの髪、ほんのり薔薇色に染まった頬、閉じられた瞳から窺い知れる長い睫毛と艶々としたピンク色の唇。
アランの腕の中で眠るエミリーの以前にも増して美しく可憐な姿に、集まった者は皆声も出せずにただ見つめていた。
やがて一人の兵士がハッとしたように跪いて頭を下げると、周りにいた数人の者がそれに倣い、次々と跪いていく。
その波はあっという間に辺り一面に広がり、玄関前に集まった人は全てエミリーに敬意の念を放っていた。
メイは、侍女長の隣、メイドの列の一番前で、その光景を万感の思いで見つめていた。
瞳は涙で潤み、鼻を啜りながらも、瞬きもせずにじっと見つめていた。
ほんのさっきまで、こんな風に戻られるなんて一ミリも知らなかったし、信じられなかった。
アラン様は他のご令嬢と帰城されるとばかり思い込んでいた。
そう、こんな風にこの目で確かめるまでは―――