シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
思わず口をついて出た言葉。背後で息を飲む音が聞こえてきた。


時が止まってしまったかような静寂。


自分の心臓の音だけが身体の中でうるさく響く。



――どうしよう・・・言ってしまったわ。

言ってはいけないと思っていたのに。迷惑になるだけなのに。

ほら、とても困ってる。


それはそうよね・・・驚くわよね。




「ごめんなさい。アラン様、今わたしが言ったこと、忘れてください。許してください・・・」


居た堪れなくなって、口を塞いで玄関に向かって走った。




「待て!その姿で何処にいく!?」



玄関の扉の前で、素早く前にまわったアランにしっかりと抱き止められた。


羽織っていた上着がふわりと床に落ちていく。


「離してください。お願い離して」

「ダメだ、離さぬ。全く、君は・・・。何処に行くつもりだ?・・・良い。私の心はしっかり定まった。もう二度と逃しはせぬ」


アランは、逃れようと動き回る身体を軽々と抱き上げ、スタスタと部屋の中に戻ってソファの上にふんわりと座らせた。


「君が部屋から駈け出していったとき、どれほど心配したと思っておる。君はいつも私の心の中にしっかりとおる。君が揺れ動けば、私も揺れ動く」


いつになく腕に力が入っていて、苦しいくらいにぎゅーっと抱き締められた。



“ぎゅーっと抱き締めてくれたの”



――でも、アラン様はシンディさんのことが好きなのでしょう?

シンディさんもこんな風に抱き締めたのでしょう?

アラン様の考えてること、わたし分からない・・・。



アラン様の気持ちが、分からない・・・・。



「アラン様は、シンディさんのこと好きなのでしょう?」



「シンディのことは、好いておる」



――やっぱり、そうよね・・・。

アラン様はこの国に来て、身寄りのないわたしを、保護してくださって。

しかも妹のように、こんなに大切にしてもらえて。

わたしはそれだけでも幸せと思わなければいけないわ。



「アラン様は、近いうちにお妃さまが決まると聞きました。妹のようなわたしを心配するよりも、心に決めた方を、シンディさんを大切になさってください・・・。わたしは、もう、ひとりで大丈夫ですから・・・。この国に慣れてはいませんけど、なんとか生活して行けそうですから。最初のお約束通りに、もうそろそろ、城から出なくてはいけませんもの・・・」



「待て。君の申しておることは、一部を除き、すべて間違っておる。まず第一に、君のことを妹だと思ったことは一度もない。シンディならば妹だと思っておる。第二にシンディが心に決めた者だと、誰がそんなことを申した?」
< 280 / 458 >

この作品をシェア

pagetop