シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「でも・・・アラン様は・・・シンディさんが好きで・・・。抱き締めて・・・それから唇を」


「誰にそれを聞いた?パトリックか?確かに私は、シンディを抱き止めたが、抱き締めたりはしておらぬ。もしや君は、私が、誰でもこのように腕の中に入れると思っておるのか?私が誰でもこのようにキスをしたり、髪に触れたりすると思っておるのか?」


二の腕を掴んで眉を寄せ、真剣な表情で聞いてくる声色は少し苛立っていた。


「えっ?あの・・・そう言うことではなくて・・・シンディさんが・・あの・・・」


――怖い・・・。なんだかものすごく怒ってる。

確かにそう言われればそう思うけれど・・・。

でも、シンディさんはあのとき、確かに言っていたわ・・・。


“その先はわかるでしょう?”って。


違うの―――?


誰を信じればいいの?




「例え妹のように思っておろうが、私は他人を簡単に腕の中に入れたりはせぬ。ましてや、キスなどもってのほか。君は、私をその様な男だと思っておるのか」


「そんなことはありません。でも、あの―――」


あたふたと手を横に振って否定するが、アランの怒りは収まりそうもない。ブルーの瞳がギラッと光り、アメジストの瞳を捉えている。焦るエミリー。



「でも―――?」


あたふたと動き回る手をしっかりと捕えられ、俯きがちだった顔をくいっと上に向けられた。


「私が、毎日どんなに自分を抑えておるか、君は分からぬか?」


暖炉の槇がパキっと音を立てた。


――え・・・?抑えるって、一体何を・・・?


「全く、君は・・・・」


アランは窓の外を見やり、懐中時計を取り出した。


「・・・暫しここで待っておれ」


アランは仮眠室に向かうと、毛布を取って戻り、エミリーの身体にすっぽりと被せた。暖炉の火を消して、ソファの前にふわりと跪いて、エミリーの手に口づけをした。



「我が主よ・・・我が元にお戻り願い申す」



暗くなった部屋の中、雨音だけが聞こえてくる。立ち上がるついでのように、片腕で毛布ごと軽々と抱き上げられた。



「今から塔に戻る。文句は申させぬ。暫しこれを持て」


有無を言わせぬ迫力で、玄関で傘を渡された。



「あの、アラン様?わたし歩けます」


扉を閉め終わったアランが、傘を小さな手から奪った。


「ダメだ。逃さぬと申したであろう。外はもう暗い故、誰にも分からぬとは思うが、念のためだ。君はしっかりと毛布を持っておれ。良いな」



薔薇園の中、傘に雨の当たる音と、アランの足音だけが響く。


月の光の届かない雨の夕暮れ。辺りはすっかり闇に染まっていた。
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