シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
月の光も外灯もない広い城の庭。

目を凝らさないと、何が何処にあるのかわからない。

その闇に、突然何故か、書籍室の白い影のことを思い出した。

あのホワホワと動く白い影。


あの影は、書籍室だけにいるのよね?ここには現れないわよね?


どうしよう・・・なんだかとても怖い。


アランの肩に頬を埋め、キュッと身体を寄せると、アランの腕もそれに反応して、抱きよせてくれた。

塔の玄関灯が見えてきたときは、その温かな雰囲気にホッとしたのと同時に“帰ってきた”という思いが自然に湧き上がった。

もうここがわたしの家になってる。


玄関の警備兵にアランが傘を渡すと、兵たち二人がホッとしたような笑顔を浮かべ、頭を下げた。二人とも駈け出して行ったエミリーの身を案じていた。



「お帰りなさいませ。エミリー様の湯殿をご用意いたしましょうか?」


玄関脇にいた使用人が、にこにこしながら声をかけてきた。


「良い・・・それよりも、今日の夕食は要らぬと、王の塔に申し伝えよ。ここでエミリーと供にする」


言い置いてアランはスタスタと階段を上がっていく。3階まで辿り着くと、正室の白い扉の前を通り過ぎた。護衛が警備だまりから出てきて頭を下げた。



「あ・・・アラン様、あの・・お部屋は通り過ぎましたけど、何処に・・・」


アランは無言のままスタスタと歩き、一番奥の扉の前に立った。ここはアランの寝室。警備兵がすかさず近寄ってきて頭を下げた。



「ご苦労。今より、私が良いと申すまで、誰も部屋に近付かせてはならぬ。良いな」


腕の中にはすっぽりと頭から毛布に包まれたエミリー。アランのいつにない雰囲気。警備兵はその意味を悟り、扉を恭しく開けて深く頭を下げた。



相変わらず広い部屋の中。

灯りの点いていない部屋の中はひんやりと冷たく感じる。



「アラン様、あの・・・・どうしてここに?」


「逃さぬ、と申したであろう」



壁の燭台に手を近付けて火を灯すと、真ん中ほどにある広くて大きなベッドが浮かびあがった。その上に、エミリーはふんわりと下ろされた。


「もう、この毛布は要らぬな」


武骨な手が、毛布を掴む指をゆっくり解き、毛布をするりと剥ぎ取った。

ブロンドの髪がふわりと揺れ、薄いバスローブ一枚の身体が、部屋の灯りに浮かび上がった。



「君は無防備にも、この姿をパトリックに見せた。彼は男だ。愛しい者がこんな姿になっておれば、普通に理性が吹き飛ぶ。この刻印のほかに何をされた?正直に申せ」



“刻印をつけるだけだ。それ以上は今は何もしない”
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