シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「バロン、待ちなさい。そっちは泉の方だ。私が行きたいのはそっちじゃない」
―――全く何だと言うんだ。いつもは私の言うことを聞いてくれるのに。
うっそうと茂る森の中、リックの焦る声が響く。
腰に下げた植物採集の籠がゆらゆらと揺れて、急いでいるというのにとても歩きづらい。
バロンはリックの制する声を無視するように、ずんずん奥へと進んで行く。
リックは、朝からずっと愛犬のバロンと一緒に研究のための植物の採取をしに来ていた。
シャクジの森の中、かなり奥深く入り込んでしまい、お昼も近くなったため、一旦見張り小屋へ戻ろうとしていた時だった。
バロンの様子が急におかしくなった。
ずっとリックの隣で一緒に歩いていたはずなのに、ピタッと止まったかと思うと、ピクッと耳を動かして森の奥を振り返り見た。
少し濡れた鼻がひくひくと動き、黒い瞳がうっそうと茂る木々の向こうに向けられている。
リックの傍から離れ、くるっと向きを変えたバロンは、まるで何かに取りつかれているように、森の奥にすいすいと歩いていく。
「バロン、待て。どうしてそっちに行くんだ。小屋は向こうだよ」
顎鬚を震わせながら叫ぶが、愛犬の耳には届いていないのか、全く戻ってくる気配がない。
リックは仕方なく追いかけた。
すいすい歩く犬のバロンの後を追うのは、年を取ったリックにはかなりきつい。
草をかき分け、木の枝を避け、懸命に歩いた。
暫くすると、足元の草が水を含んだものに変わっていた。
歩くたびにぴちゃぴちゃと音を立てる。
周りの様子も違ってきて、背丈ほどもある大きな花があちこちに点在しはじめていた。
「ここはシャクジの花の群生地か・・・泉が近いぞ。となると、この水はやはり泉のものだな」
周りに気を取られていたせいか、バロンの姿を見失ってしまった。
「しまった。バロン―――!?どこだ?」
焦りながら探しているとすーっと視界が広がり、開けた場所に辿り着いた。
透明な水を湛えた泉。
シャクジの花が咲き揃う綺麗な原。
その中ほどにある木の根元で、バロンがちょこんと座っていた。
隣で小さな動物がぴょんぴょんと飛び跳ねている。
バロンの近くの木の根元がキラキラと目映い光りを放っていた。
「何だ?何故あそこが光ってるんだ?」
リックは次の瞬間、信じられないものを見た。
瞬きをする程のほんの僅かな間に、バロンの傍にいた小さな動物の姿が何処にも見えなくなっていた。
何だ?何が起こった?
「バロン、ゆっくりこっちにおいで―――」
―――全く何だと言うんだ。いつもは私の言うことを聞いてくれるのに。
うっそうと茂る森の中、リックの焦る声が響く。
腰に下げた植物採集の籠がゆらゆらと揺れて、急いでいるというのにとても歩きづらい。
バロンはリックの制する声を無視するように、ずんずん奥へと進んで行く。
リックは、朝からずっと愛犬のバロンと一緒に研究のための植物の採取をしに来ていた。
シャクジの森の中、かなり奥深く入り込んでしまい、お昼も近くなったため、一旦見張り小屋へ戻ろうとしていた時だった。
バロンの様子が急におかしくなった。
ずっとリックの隣で一緒に歩いていたはずなのに、ピタッと止まったかと思うと、ピクッと耳を動かして森の奥を振り返り見た。
少し濡れた鼻がひくひくと動き、黒い瞳がうっそうと茂る木々の向こうに向けられている。
リックの傍から離れ、くるっと向きを変えたバロンは、まるで何かに取りつかれているように、森の奥にすいすいと歩いていく。
「バロン、待て。どうしてそっちに行くんだ。小屋は向こうだよ」
顎鬚を震わせながら叫ぶが、愛犬の耳には届いていないのか、全く戻ってくる気配がない。
リックは仕方なく追いかけた。
すいすい歩く犬のバロンの後を追うのは、年を取ったリックにはかなりきつい。
草をかき分け、木の枝を避け、懸命に歩いた。
暫くすると、足元の草が水を含んだものに変わっていた。
歩くたびにぴちゃぴちゃと音を立てる。
周りの様子も違ってきて、背丈ほどもある大きな花があちこちに点在しはじめていた。
「ここはシャクジの花の群生地か・・・泉が近いぞ。となると、この水はやはり泉のものだな」
周りに気を取られていたせいか、バロンの姿を見失ってしまった。
「しまった。バロン―――!?どこだ?」
焦りながら探しているとすーっと視界が広がり、開けた場所に辿り着いた。
透明な水を湛えた泉。
シャクジの花が咲き揃う綺麗な原。
その中ほどにある木の根元で、バロンがちょこんと座っていた。
隣で小さな動物がぴょんぴょんと飛び跳ねている。
バロンの近くの木の根元がキラキラと目映い光りを放っていた。
「何だ?何故あそこが光ってるんだ?」
リックは次の瞬間、信じられないものを見た。
瞬きをする程のほんの僅かな間に、バロンの傍にいた小さな動物の姿が何処にも見えなくなっていた。
何だ?何が起こった?
「バロン、ゆっくりこっちにおいで―――」