シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
その会場の中に、突如広がっていくぴりっとした緊張感。

談笑していた人々が一斉に振り返り、会場の空気が一変した。

奏でられていた音楽が止み、しんと静まり返った会場。


人々が見入る先に立っていたのは、王子の威厳を惜しげもなく放つアランの姿。

その隣に、遠慮がちに佇む清楚で可憐な女性。

その近寄りがたい王子のオーラは、隣に立つ者を守るかのように周りに放たれていた。


人々が息を飲み、氷の王子の隣にいる女性を見つめていた。

周りに漂う空気はとても柔らかくてあたたかい。

氷の王子の威厳あるオーラも打ち消してしまうほどに、柔らかな雰囲気を周りに放っている。


会場にいる御令息の一部がざわめきだした。

女性を見ながら、こそこそと会話を交わしている。



「そう気を放つでない。皆が君に寄ってきてしまう」

「え・・・?気って何ですか?」


不思議そうにアランを見上げる女性。ブルーの瞳が困惑の色を浮かべ、女性を見下ろしている。


「無意識か。怖いな―――私から離れてはならぬ。良いな?」





アランが女性を気遣いながらゆっくりと会場の中を歩いていく。

進む先の人垣が両側に分かれて道が出来ていく。

アランの腕にそっと手を預け、楚々と歩く女性の姿。


ふんわりとした髪は綺麗に編み込まれ、首筋の刻印はメイクでうまく隠されている。

ドレスの裾には小さな宝石が縫い込まれ、シャンデリアの灯りを受け、歩みを進めるたびにキラキラと輝いていた。


たまにアランが気遣うように話しかけ、それに答えるように、女性はにっこりと笑っている。

すると、ぴたっと立ち止まって、耳元に顔を近付けて何かを囁くアラン。

見る間に頬が薔薇色に染まり女性は俯いてしまった。



誰もが初めて見る氷の王子の柔らかな姿。

相変わらずの無表情だが、隣の女性に向けられたものは冷たさが全く感じられない。

歩く傍からオズオズと話しかけてくる者には、いつもと変わらない冷たい威厳を放ち、女性を守るように体で隠している。




その様子を見ながら、マリアは悔しげに唇を噛んだ。

―――あの方は誰?アラン様があの様にされるなんて・・・。

まるで恋人のようだわ。


そんな方がいるなんて、聞いてない。


確かめなくては・・・。



マリアは振り返って、周りに集まっていた御令息ににっこりと微笑んだ。


「すみません。皆さま方。私―――」


言いかけた言葉をマリアは噤んだ。

皆、アランの方を見ていて、マリアの方を見ていた者は誰もいなかった。
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