悲恋マーメイド

驚く男から離れるように下がりつつ、
視線を合わせる。


可哀そうな、
可哀そうな、
かわいそうな

ひと。


そして愚かな、
愚かな、
おろかな、

私。


消え入るように微笑みながら、

女は言った。




「あなたが
好きでした」




男はその告白に一瞬戸惑いを見せた。

それだけで女は救われた気になる。

自分の今からすることに決して後悔しない。

女は本気でやっとそう思えた自分を誇りに思った。



「望んでください、
明日を。

願ってください、
未来を。

笑ってください、
どうか。

生きてください、
あなたらしく」



薬瓶を口元に近付けながら女はそっと目を閉じた。


「それが叶うなら」


瓶が唇につく。


「私なんて無くなってしまってもいい」