赤い狼 四
さっき注いだからまだ温かい。
手が冷えてたから丁度ぃぃや。
マグカップの中を覗くとコーヒーの中の自分と目が合う。
マグカップの中の世界はコーヒーのせいで暗く、黒い。
何でか知らないけど、急に怖くなってきて。
俺はこの時、感じてたのかもしれない。
既に止まった時がゆっくりと動き出していた事を。
この先に起こる、事も。
コーヒーの中の自分から目を反らし、ズズッと音をたててからゴクゴクとブラックコーヒーを一気飲みする。
得体の知れない恐怖を全て消すように。
大丈夫。何も感じない。全然怖くない。
恐れてなんか、いない。
ガンッと思いっきり強くマグカップを机に叩きつける。
何を怯えてるんだ、俺は。
フッと鼻で自分自身を笑ってから辺りを見渡す。
テレビゲームの音にゲームへの呼び掛け。
人生ゲームのルーレットが回る音と、話し声。
カタカタというキーを打つ音にパソコンに喧嘩を売る声。
かけ直したらしく、バイクの店員と結局仲良くなって電話でバイクについて語る声。
うん、問題ない。いつもの風景。いつもの光景。
いつもと変わりない日常。