赤い狼 四
「おいっ、棗!」
銀が珍しく慌てた様子で棗の名前を呼んだ。
その光景に、違和感を覚えない訳がない。
「棗、その傷誰にやられたの?」
「いや、これは俺の不注意でやっちゃっただけ。だから心配しないで。」
心配の眼差しを棗に向けると、棗は私から目を逸らして左の頬の傷口についていた血を拭う。
明らかにおかしい。
目を背ける事なんて普段はしないのに。
棗が何を隠しているのか探るためにじっと棗の瞳を見つめる。
すると棗はコホンッとなんともまぁ、わざとらしい咳払いを一つした。
「疑わないでよ。本当だよ?さっき車の中でリンゴ食べてね。
リンゴの皮を剥くときにあやまって頬を切っちゃったんだ。」
にこりと笑って私を見る棗をそのまま見つめ続ける。
そして、ある事に気付いた。
棗の頬の傷。それは明らかにリンゴを剥くときにできた傷じゃないって事。
だって棗は右利き。そして、傷ができているのは左の頬。
もし、左の頬を切るような事があっても棗からして切り傷は真横か右下がりになるはず。
なのに、その傷は左下がりだ。