恋愛スマイル
「……っ!?」


抱き、しめられて、

いる。


全く思考がついていかない出来事が、実際で起こっていた。


自分が揺らいだので支えてくれたのかと一瞬思う。

でも、その腕の強さに違うと悟る。

同情されているのかと思う。

でも、その瞳の真剣さに違うと悟る。

気がちがったのだ、と思ったとき、先生は口を開いた。


「俺のいない所で、倒れるな」


その声が優しい理由が、馬鹿以下の私にはわからない。


「迷惑だ」


先生は少しだけ、私に微笑んだ。


「お前がここに来ないから、俺が行くのが迷惑だ。お前が俺を見ないのを、俺が見るのが癪だ。稚拙でデタラメな噂を撤回するにも、お前にできなければ意味がない」


胃が、スッと痛みを手放した。

鎮痛剤が効いたのか先生の言葉が効いたのかわからないけれど、殺人的な疼痛は跡形もなく私から去る。


「俺のいない場所で苦しむな」


髪を撫でられる。


「俺を心配させるな」


その手が唇にふれ、


「そばにいろ」


そっとなぞる。


「お前のことを考える時間より、お前といる時間が多いほうがいい」


瞬きさえ忘れて、その人を見る。

なんで。

なんでそんなこと、言うの。

なんでそんな、こと、
言えるの。


「先…」

「好きだ」


頭が真っ白になった。
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