貴方の愛に捕らわれて
私は困惑しながらも『猛さん…?』と名前を呼べば、猛さんは満足げに24才だと答えてくれた。
「さっきの曲は何ていうんだ?」
『オーバー ザ レインボーです』
「それ、歌ってくれないか?」
猛さんはその曲が気に入ったようで、それからは何時も最後にその曲を歌ってお別れした。
それからも猛さんは毎晩黙って私の歌を聴いてくれた。
『毎日こんな時間まで、残業されているんですか?』
毎晩現れる猛さんにふと疑問に思った事を聴いてみた。
彼は驚いたように目を見開いたが、直ぐに少し眉根を寄せて困ったような表情で答えた。
「まあな……」
猛さんは、お仕事の事をあまり聞かれたく無いようだった。
私は猛さんの仕事にそれほど興味があった訳でもないので、それ以上の詮索はしなかった。
そんな不思議な関係が2ヶ月ほど続いていた。
私は、更に猛さんと打ち解け、バイト先や学校での出来事などを、ぽつりぽつりと話すようになった。
猛さんは歌と同様に黙って話しを聞いてくれ、時々優しく笑ってくれた。