貴方の愛に捕らわれて
振り返った視線の先には、まるで能面のように無表情でこちらをじっと見据える藤野さんがいた。
藤野さんが無言のまま一歩踏み出せば、思わずひゅうと喉が鳴った。
『………ど…して…』
悲鳴をあげそうになるのを必死で堪え、絞り出した言葉は頼りのない掠れ声。
「何度かお声掛けしましたが、お返事が有りませんでしたので。
お夕食の用意が整っておりますが、如何されますか?」
無表情のまま室内に入ってくる藤野さんに、何故だか全身が震えて返事すら返せない。
辛うじて左右に首を振れば、ぴたりと足を止めた藤野さんは暫し無言で私を見つめた後、
「そうですか。次からは、お夕食の必要がない時は事前にご連絡下さい」
感情を感じさせない声音でそれだけ告げると、くるりと踵を返してリビングを出て行った。