貴方の愛に捕らわれて
「香織。大事な忘れ物だ」
そう言うと大きな手が顎先をとらえて、クイッと持ち上げられる。優しい温もりが唇に触れ、二度三度と啄むと名残惜しそうに下唇を甘噛みして、すっと離れていった。
全身を駆け抜ける甘い痺れに惚ける私の頬を、節太の指の背が優しく擽ると「今日明日はしっかり体を休めろよ」と言って猛さんは車に乗り込んでいった。
走り去ってゆく車をしばし呆然と見送っていると、ふと背後に視線を感じて……イヤな予感に冷や汗が背中をツツゥッっと流れる。
意を決してぎこちなく振り返れば、そこには目をむいて口を半開きにした強面集団。
ばっちり目があってしまった。
見られてた!?
ぶわっと顔に熱が集まる。
『……お…』
「…お?」
『お疲れさまでしたっ!』
バイト終わりかっ!口をついて出てきた意味不明な言葉に、自分で自分にツッコミを入れる。