貴方の愛に捕らわれて
彼の瞳が一瞬、哀しげに揺らめいた。
『違うんです。怖い訳ではないんです。
男の人に触られたことがないから、少しビックリしただけなんです……』
自分の過剰な反応が彼を傷つけたと思った私は、誤解を解くため必死に説明をした。
「そうか」
私の気持ちは伝わったようで、少しだけ細められた彼の瞳から哀しみが消えた事にホッとした。
しかしホッとしたのもつかの間、冷静に自分の言動を省みれば、あまりの恥ずかしさに一気に顔が熱を帯びる。
真っ赤になって俯く私に、彼は笑いを含んだ優しい声で話し掛けた。
「お前、名前は?」
『香織、篠宮香織です。あの、あなたは……?』
「郷田猛(ゴウダ タケル)だ」
それから私達は、少しずつお互いのことを話した。
「年はいくつだ?」
『16才です』
私が正直に答えると郷田さんは少し驚いたようで、右の眉毛をピクリと上げた。
「何でいつもこの時間なんだ?」
『アルバイトの帰りなんです』
郷田さんは、私が毎日同じ時間にここに来ることを不思議に思っていたようで、私の返事に納得していた。