魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
結局リロイは朝まで一睡もせずに火の当番を続け、早朝鳥の鳴き声が聴こえだした時、オーディンに声をかけられた。


「寝なかったんですか?」


「おはようございます。こんな魔物の巣窟の真っただ中で寝たりしませんよ。ティアラたちが起きたら出発しましょう」


「リロイ、これを」


ローブの中に手を突っ込んで差し出してきたのは、ラスに手渡したものと同じ白いポットだった。

とりあえず受け取って一口飲んでみると…何とも言えない甘さが口の中いっぱいに広がり、みるみる疲労が取れていった。


「これは…?」


「秘密です。さあ、軽く朝食を摂った後山を越えましょう。早ければ今日の夜には下ることができます」


眼帯姿の謎の男は得体の知れない存在で、しかもコハクの右腕とも言えるべき人物だ。

“神の鳥”がまず彼の元へ行き、その後ラスの元へ現れたのはひとえにやはりこのオーディンという男は…“そちら側”なのだろう。


「あなたは…何者なんですか?」


「だから質問しないで下さい。私はミステリアスな男をモットーにしていますから」


話しているうちに団子状態になって眠っていたティアラ、グラース、ローズマリーが目覚め、すっぴんでも美しい彼女たちをオーディンが絶賛した。


「こんな美女たちに囲まれて旅ができるなんて私はなんという幸せ者なのでしょうか。この旅にラス王女が加われば完璧ですね」


「そんなこと言ってるのがコハクにばれたら八つ裂きにされるわよ」


「それはまずいですね、今のは聴かなかったことにして下さい」


――そんな掛け合いをしているとティアラが頭から毛布を被ったまま背を向け、馬車へと駆けこんだ。


どうしたのかと思ったリロイは馬車に近寄り、軽く窓を叩いて声をかけた。


「ティアラ?どうしたんですか?」


「お化粧してない私の顔はひどいんです!だから…あっちに行ってて下さい!」


…とんでもない。

すっぴんだったティアラは少しだけあどけなくて可愛らしく、化粧をしている時よりも綺麗だと思えて、つい笑みが零れるとまた窓を叩き、寄りかかった。


「素顔のあなたも綺麗ですよ」


…心からの、誉め言葉。
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