魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
イエローストーン王国とグリーンリバーの距離は馬で数時間ほどと近く、ドーム状の結界に包まれているグリーンリバーをあの魔王が作ったのかと思うとまだ俄かにそれを信じられずに春色の結界を見上げた。


「ラスと影はもう着いているでしょうか?」


「いえ、コハク様の魔力が感じられないのでまだですね。ラス王女がしっかりやってくれるでしょうから私たちはのんびりと待ちましょう」


すでに夕闇が迫っていたので、街の入り口に立つ山羊の頭を持つ魔物と犬の頭を持つ魔物の2頭にオーディンが声をかけた。


「何か変わったことは?」


「オーディン様お帰りなさいませ!変わったことは特にありませんけど住民が5人ほど増えました!今みんなで引っ越しの手伝いをしているところです」


「そうですか、ご苦労様です。さあ中へ」


一歩中へ入ると一気に暖かくなり、ティアラの手を引きながら久しぶりに訪れた街並みを見回した。

沈みゆく太陽が川に映り、景色を楽しむ人々がベンチに座って幻想的な景色を幸せそうな表情で見ている。


ラスと魔王は本来ここで幸せに暮らしていたはずだった。


あの男のことだから、すでにラスとの間に子供も生まれていたかもしれない。


ラスの幸せを奪った罪が背中に圧し掛かって胸を押さえると、ティアラが握った手に力をこめた。


「自虐的になるのはあなたの悪い癖ですよ」


「すみません、つい…」


「ここに来たのははじめてだわ。素敵な所ね、私もここに住もうかしら」


「歓迎しますよ。ではあなたのために家を1つ用意しましょう」


「ふふ、でも私の家は水晶の森の奥と決めているの。ねえ何でも屋さん、街を案内して頂ける?」


「ええもちろん。あなたたちはどうぞ城へ行ってください。あなたたちなら顔パスですから」


「私も少し街を散策する」


…結局ティアラと2人で城へと行き、若干緊張しながら城内へと入ると、服を着た魔物たちが頭を下げてきては城内をあちこち掃除しまくっていた。


「相変わらず奇妙な光景ですね」


「絶対悪の魔物を良い魔物になんて…僕には影の発想がよくわかりません」


笑いが込み上げ、また手を握り合った。
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