魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ディナータイムはおかしなことになった。

オーディンとローズマリーがコハクのあれこれを暴露し、グラースとティアラとリロイがラスのあれこれを暴露する。

共に幼かった頃からのコハクとラスを熟知しているので笑いの絶えない夜になり、ティアラが腹を押さえて目じりを拭った。


「ああ、笑いすぎてお腹が痛い…!ラスは本当にお転婆だったのね」


「あちこち生傷が絶えなかったんですけど、魔王が治療と称して傷口を舐めているのには心底驚きました。ラスは恐らく今でもあれで治るのだと信じているはずです」


「手品みたいなものですよね。実際はラスにわからないように魔法で治していたのでしょう?その光景が目に浮かぶわ」


ワインが進み、酒の勢いで口が滑らかになった面々の悪口大会に見えるが、実際は愛情に溢れた暴露大会は弾みすぎて、ティアラが瞳を擦ったのでオーディンがぱんと手を叩いた。


「ではお開きにしましょうか。皆さん、今ここで話した内容はコハク様とラス王女には秘密ですよ。私なんか細切れにされて魔物の餌にされてしまうかもしれませんから」


「僕が話した内容も秘密ですよ。これ以上ラスに嫌われたくありませんから」


そう言えるようになったのはティアラのおかげで、食卓の間を出るとティアラを部屋まで送り、肩に手を置いた。


「おやすみなさいティアラ。疲れたでしょうから明日はゆっくりでいいですよ」


「とても楽しかったわ。今度は魔王とラスも加えて皆で盛り上がれるといいですね。おやすみなさい、リロイ」


酒に酔ってほんのり赤いティアラの頬に、怖ず怖ずと背を屈めてキスをした。

これはただの挨拶なのだと自身に言い聞かせながら。


やわらかい感触が唇に伝わってきて離れようとすると、今度はティアラが頬にキスを返してきた。


「こ、これは親愛の証ですからっ」


「ふふ、どこかで聴いたことがある台詞ですね」


「?」


ドアを閉めて自室に戻り、剣をベッドサイドに立てかけると横になり、瞳を閉じた。


ラスを忘れ去ることはできない。

だけど、ラスの幸せを誰よりも願っている。

魔王がきっと、それを叶えてくれるだろう。

魔王の代わりなど所詮できるはずがなかった。
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