魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
今までのわだかまりは一体何だったのかと思うほどにラスに懐きまくられて翻弄されているリロイをよそ目に、オーディンは手すりに座って羽を休めている碧い鳥の前に立つと頭を下げた。


「お導き下さりありがとうございました。神にも私からの感謝をお伝え下さい」


「その娘の声が届かなければ手を貸すことはなかった。これは神からの慈悲だ。お前もその目に恥じないように今後も世界を巡回し、見識を高めるがいい」


「はい、御心のままに」


2羽が翼を大きく広げたので別れを悟ったラスが2羽の小さな頭を代わる代わる撫でるとまた誰も居ない右上を見上げて笑った。


「精霊界まで連れて行ってくれてありがとう。さようなら!」


「ああ、元気で」


大空に舞い上がった時、朱い羽と碧い羽が1枚ずつひらひらと落ちてきて、それを空中で掴むとまたラスがこちらを見た。


「ラス…僕は影に言わなければならないことがあるんだ」


「知るかボケ」


「…!?ら、ラス?」


「コーが“知るかボケ”って言ってるよ。駄目だよコー、ちゃんとリロイとお話してっ」


ラスが頬を膨らませて怒ると、魔王がそんなラスに折れたようで、またラスの口から聴きたくない乱暴な言葉が飛び出た。


「“俺が身体を取り戻したら話を聞いてやってもいいぜ。小僧が…次俺のチビに色目を使ったらまず両腕を斬…”」


「ら、ラスっ、もういいから!わかったから!とにかく無事に戻って来れて良かったよ。でも…影はどうやったら見えるようになるの?」


「…方法はわかってるの。ゴールドストーン王国に戻らなきゃいけないんだけどまた旅になっちゃうね」


方法はわかっていると言いながらラスの表情が曇ったので気になって顔を覗き込むと、オーディンが愛用の杖でこつんと地面を叩くと皆の注目を浴びた。


「今回特別にただ働きして差し上げます。ただし私の正体云々には口出しをしませんように。コハク様、これは貸しですからね。貸しは後で返して頂きますよ」


今度は地面に円を描くと、複雑なルーン語が浮かび上がり、ラスが興味津々で覗き込んだ。


「これはなあに?」


「扉ですよ」


つまり、瞬間移動。
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