魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスは相変わらず“もうやめて”とは言わなかった。

コハクのしたいようにさせて、コハクの作り出すリズムに溺れて、うわ言のように何度も何度も名を呼んだ。


「コー…、コー…!」


「コハクって呼べって。でないとイタズラするぞー」


「コハク…っ、私のことも…」


「ラス…ラス…ラス………なんか照れるな…やっぱチビでいいや」


「ひどいっ、コーの馬鹿」


やっぱり昔から呼び慣れている名前の方がしっくりきて、ごろんと寝転がるとラスが胸の上に上半身乗っかってきた。


「ちっ、チビっ、むむ胸があたってるって!」


「ねえコー、後でお父様にご挨拶に行くでしょ?」


…何の脈絡もなくグリーンの大きな瞳を瞬かせてきたので、コハクは汗で頬に張り付いた金糸のような髪を払ってやると、10㎝とない距離でじっと見つめてくるラスと視線を合わせた。


「俺がカイに挨拶?なんでだよ」


「“お嬢さんをお嫁さんに下さい”って言ってくれなきゃやだ!でね、お父様が泣くの。泣きながら“娘を幸せにしてやってください”って言うの」


――ラスが夢見る乙女なのは重々承知だが、コハクはカイが泣く姿をどうしても想像できず、またカイに頭を下げて結婚を請う自分の姿も想像できなかった。


「んー……」


「駄目なの?お父様のお許しがないとコーとは結婚しないよっ」


「へっ?」


ぷうっと膨れて寝返りを打って背を向けてしまったラスの肩甲骨にキスをしながら、機嫌を治してもらうためにかなり焦りながら膨れた頬を後ろから突いて破裂させた。


「言うって。言えばいいんだろ?でもカイが許してくれるかなあ…。あいつああ見えても性格悪いんだぜ」


「お父様は勇者様だから性格悪くないもん」


「俺はチビの勇者様だけど性格悪いぜ。なんだよ殴られるかもしんねえ俺の心配もしてくれよな」


今度はコハクの頬が膨れ、頬を突きまくって破裂させると耳元で囁いた。


「私はずっとコーの味方だよ。性格悪い勇者様でもいいの。コー、勇者様対決だね!」


コハクはラスの左手薬指に嵌まっているガーネットの指輪にキスをしながらにやりと笑った。


「ぜってぇ負けねえ」
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