魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
実は皆、ラスが厨房でがさがさやっていることに気付いていた。

だが見たことのないような真剣な顔で朝食らしきものを作っていて、それを誰のために作っているのかももちろん気付いていてそっとその場を離れたのだが…


「朝食だ」


2階のバルコニーに出て紅茶を楽しんでいたリロイとティアラ、ローズマリー、オーディンの元にカートを引いたグラースが現れた。

ただそのラインナップが、ラスが作っていたものとそっくりそのままだったので首を傾げると、グラースは口角を上げて笑いながら森の方を顎で指した。


つられてそちらを見ると…そこには太陽の下を手を繋いで歩いているコハクとラスの姿が在った。


「ラスが皆の分も用意していた。なかなか美味いぞ」


そう言われてベーグルサンドに手を伸ばしたのは鎧を着ずにラフな格好をしたリロイで、じっと手元に目を落とすとふわっと微笑んだ。


「ラスが…これを?…ラスの手料理を食べれるなんて思ってもみませんでした」


「魔王が帰って来た時のためにと毎日こそこそ練習を繰り返していた成果だ。味わって食え」


「へえ、これをラス王女が?……あらあら美味しいわ!ティアラも食べてごらんなさいよ」


「はい。……ん、美味しい!ラス…とっても不器用だったのに頑張ったんですね」


――森の手前でラスが自分の影を指差し、次いで太陽を指差し、何かに説明をしているようだった。


…きっとコハクが居ない2年間にこうして太陽の下で自身の影に話しかけていた日々のことを言っているのだろう。

その証拠にいつもは性格の悪い笑みを浮かべているコハクの顔には優しい笑みが浮かび、ラスを抱っこするとこちらが見ていることに気付き、ラスの頬を引っ張ってこちらに注意を向けさせた。


「みんなー!おはよー!」


「おはよう!ラス、朝食を頂いてるわ。ありがとう!」


「うん!明日はみんなで食べようね!」


ラスの気を引きたくて必死な魔王がラスの目を手で塞いで見えないようにすると、城内へと入って行く。


「幸せそうだわ。その…やっぱり…昨日は…」


「コハクの思うが儘だったでしょうね」


ティアラの問いにローズマリーが答え、リロイが俯いた。
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