魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「あなた…あんな約束をしてもいいんですか?ラスが魔王の花嫁になってしまうわ」


コハクが…魔王が突然現れて世界征服宣言した時から大嫌いで仕方のなかったソフィーが不安に声を揺らしながら中庭で仲睦まじげにしているラスとコハクを見つめると、隣に立っていたカイは愛妻の肩を抱きながら苦笑した。


「…私があの男と対峙した時、あの男は…悲しそうな瞳をしていた。笑ってはいたが歪んだものでもなくて…私を待っていたように見えたんだ」


「でも…沢山の町や国を壊したわ!ホワイトストーン王国だって…」


「ソフィー…何か意図があるんだよ魔王には。やみくもに破壊を続けていたわけではないと思う。私はあの男と刃を交えたからよくわかるんだ。それにほら…見て」


ラスがコハクのひざに座りながらわき腹をくすぐりまくってコハクを悶えさせると、今度はコハクがお返しとばかりにラスのわき腹をくすぐり、2階のバルコニーに聴こえるまでラスの可愛らしい叫び声が聴こえた。


…2年間塞ぎ込んでいたラス。

会いに行ってもなかなか会ってもくれず、会ってくれたと思ったら瞳は虚ろで、ぴくりとも動かず、精巧なビスクドールのようだった娘。

あんなに笑えるようになったのが魔王のおかげだということはソフィーにとって認めがたく、カイのマントをきゅっと握ると声を震わせた。


「魔王の花嫁になんて…」


「私だってただの傭兵だったんだよ。でもこの国を守ろうと…魔王を倒そうと思って起ったんだ。そして君と出会って、君と結婚した。ソフィー…何が起こるか誰にもわからないものだ。魔王もあんなに優しい顔をする男じゃなかった」


――確かにそう言われればそうだ。

ラスを生み落とした時…喜びと感動と共に衝撃を受けたのを今でも覚えている。


『これが俺の花嫁になる女か。よく生んでくれた』


…生まれたばかりで泣いていたラスの影から聴こえた低くて艶やかな男の声を聴いた時…気を失い、気が付いた時はそれ以降ラスの影に憑いた魔王はラスがある程度大きくなるまで喋らなかった。

気を遣うような男には見えなかったが…


「あの子が魔王を変えた。もう少し見守ろう、ソフィー」


「…ええ」


また笑顔が消えないように――
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