魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
軽い怪我程度なら魔法は使わず自然治癒に任せるのだが…

リロイの右頬は盛大に腫れていて、リロイの手を引くとゴールドストーン王国へ来るといつも通される客室にリロイを連れ込んだ。


「とにかく冷やしましょう。今日は熱が出るかもしれないから安静に…」


「これくらい平気です。でも影の奴に思いきり殴られました。やっぱりあいつと僕は馬が合いません」


「魔王と馬が合うのはラスくらいです。さあ、これを」


簡易型の氷嚢をティアラが持っていた白いハンカチで包んで手渡すと、リロイは素直に受け取って腫れている右頬にあてて微笑んだ。


「気持ちいいな…。ありがとう、ティアラ。ラスのところへ行っていたんじゃないんですか?」


「ええ、そうなんですけど…。たまたまバルコニーに出たらあなたと魔王が喧嘩をしているのが見えたから…」


俯いた拍子に肩口から黒髪がさらりと零れ、真っ黒で長い睫毛が震えているのもしっかり見えた。

…ラスの睫毛も1本1本とても長くて…

またいつものように抱き着きに来てくれて話せるようになったことが本当に嬉しくて、つい人差し指の先でティアラの睫毛に触れてしまった。


「え…、な、なんですか?」


「あ、い、いえ、すみません、なんでもありません」


なんだかとても恥ずかしくなってしまい、氷嚢を頬にあてたまま立ち上がると愛用の剣を片手に律儀に頭を下げ、部屋を出た。


…レディーと2人きりになる時は決して部屋のドアは閉めない。

ラスはそれを嫌がって、いつもドアを閉めては自分を困らせる名人だった。


つい笑みが込み上げて城の隣に立つ白騎士団の宿所へ戻ろうとするとドアが開く音がして、ティアラが声をかけてきた。


「もし痛むのであればいつでも部屋に来てください。…あっ、へ、変な意味じゃないですからっ」


「ふふ、わかってます。痛んだ時は頼らせてもらいますね。ではまたディナーの時に」


螺旋階段を下りると、途中で2階のバルコニーにオーディンとローズマリーが一緒に居る姿が見えた。

2人もとてもお似合いで、恋人同士の関係になるのも時間の問題のように思える。


「みんな幸せになれたらいいな」


自分以外。
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