魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
『ベイビィちゃん、俺を呼んだかい?』


強風を巻き起こしながら真っ黒なドラゴンが舞い降り、人語を喋った。

精霊界に居た時はよくわからない言葉を喋っていたので、“ベイビィちゃん”と呼ばれたラスはコハクの腕から降りると翼を畳んだドラゴンの鼻面を撫でて嬉しそうに笑った。


「ベイビィちゃんって私のこと?」


『ああそうさ。今俺を呼んだだろう?どんなことでも手伝うぜ』


「ばーか、お前を呼んだのは俺だっつーの。俺とチビを乗っけろ。ほら、これつけてやる」


コハクがいつの間にか手にしていたのは、馬に取り付けるような手綱と鞍で、真っ白なドラゴンの角に手綱を巻きつけようとすると思いきり暴れまくり、いやがった。


『やめろ、俺に触るな』


「はあ?俺の馬のくせになに言ってんだてめえ。我が儘言うとチビを乗せてやんねえからな」


「ドラちゃん、お願いだからコーの言うこと聞いて」


――ラスが“ドラちゃん”と言うと、コハクもドラゴンも首を傾げて笑顔のラスに見入った。


「チビ…その“ドラちゃん”ってなんだ?」


「え?ドラゴンだからドラちゃん。おかしい?」


『…ベイビィちゃんが付けてくれる名ならなんでもいい。早く乗れ』


今度は大人しく角に手綱を巻きつけると鞍を装着し、ラスが乗り込むとケルベロスが不満そうに唸り声を上げた。


『ラスは僕の背中に乗るんだい!』


「お前は帰りでいいだろ。お前たちも早く乗れよ、さっさと済ませようぜ」


「あ、ああ…」


呆気に取られていたリロイが我に返り、ティアラの手を引くとコハクから首輪を3つ投げられてケルベロスの首に装着した。


『魔王様とラスのお願いだからお前たちを乗せるんだからな。本当なら頭からバリバリ食って…』


「さっきからチビのことをラスって呼ぶんじゃねえ!おら、行くぞ!」


コハクに叱られてしゅんとなったケルベロスは、ローズマリーの手を引いて背に乗り込んだオーディンを確認すると空を駆け上がった。


「コーのお友達って真っ黒ばっかりだね」


「かっこいいじゃん。でもチビは真っ白でいてくれよ」


赤い瞳が愛しげに和らいだ。
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