魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスを腕から下ろして直立していた大きな水晶の塊を窪みから抜くとぞんざいに肩に担ぎ、再び空中庭園を目指し、螺旋階段を上った。


「チビ、滑るから気を付けろよ」


「うん。ねえコー、さっきの水晶の精はどこへ行ったの?」


「この塊の中に戻ってる。水晶の森に入るにゃそれなりの精神力が必要だけど、イエローストーンがあったってのにそれ以上力を求めて何をする気だったんだか」


「力って…欲しいものなの?」


「力を持つ者は余計にそれ以上の力を求める。人間は強欲な生き物だからな」


――長い間人と人の醜い争いを数多く客観的に見てきたコハクにとっては、人と触れ合って生きてゆくよりも、改造した魔物たちと暮らしてゆく方が遥かに楽だった。


幼い頃はあれほど人との触れ合いを求めていたのに――

求めていたものは描いていたものとは全く違い、この瞳の色を恐れられ、魔法を使えることを恐れられ、整いすぎた容姿故に妬まれ、羨まれ、利用され…


人なんて…人なんて…


「コー?顔色が真っ青だよ、大丈夫?」


ラスに心配されてはっと我に返ると、ラスが背中をごしごしと擦りながら身体を温めてくれようとした。


「寒いよね、早くあったかくなるといいね」


「…チビが後で俺をあっためてくれるから大丈夫ー。さ、着いたぞ」


屋上へ着くと待機していたケルベロスとドラちゃんが早速にじり寄って来て、指を鳴らして突然現れたロープを手にドラちゃんの背に水晶を括りつけると、ラスが両手を引き寄せて息を吐きかけた。


「風邪引いたら看病してあげるから」


「マジでか!じゃあ今すぐ風邪引こっかなー」


「コーの馬鹿、めんどくさいからやめて」


「ものぐさ王女め」


ドラちゃんの背に乗り込み、ラスを包み込むように後ろから抱きしめると、ラスが向きを変えて真向かいになり、逆にコハクを包み込むように背中に腕を回して抱き着いた。


「チビ?」


「コーが悲しそうな顔してるから…。悲しいことを思い出したの?全部私に言ってね。私も一緒に悲しんで、一緒に喜んで、一緒に生きていきたいから」


「ん、サンキュ」


2人はしばらくの間、抱き合っていた。
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