魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
冷気は止まったが、それでも自然にこの氷が解けるには長い年月を要するのは容易に想像できた。


コハクが王国を丸ごとカバーするほどの大きな結界を張り、試しにサラマンダーが空中庭園の凍った地面に炎を噴きかけると、みるみる氷が解け、白亜の地面が見えた。


「よし、やれそうだな。あー疲れた!今日はこれでいいから明日から頼む」


『俺の眷属を連れてくる。だが俺を召喚するお前の精神力が尽きれば精霊界へ帰る。どうだ、面白いだろう』


「ったくふざけんな。俺の精神力も体力も底無しだっつーの!あ、ちなみに体力はチビに使って…」


『帰る。チビ娘、また会おう』


「うん。これからよろしくお願いします!」


サラマンダーが魔法陣に沈み、あまり魔法を間近に見たことがない現代っ子のリロイが興味深げに消えてゆく魔法陣をしげしげ眺めていると、ティアラが忍び笑いを漏らし、リロイの頬が少し膨れた。


「何がおかしいんですか?」


「いえ、なんでも。結局私たち、何の役にも立ちませんでしたね」


「今日は下見だっつってんだろうが。お前らにゃ明日からいやってほど働いてもらうからな。いい考えがあるんだよなー」


冷たい風に黒い髪をなびかせながら魔王がにたりと笑い、相変わらずラスの胸元をチラ見ばかりしていると、ラスがオーディンの腰を突いた。


「オーディンさんは四精霊さんとお友達なの?」


「友達ではありませんよ、知り合いです。というか…ラス王女…近くで拝見するとなおさらお可愛らしいですね」


「!てめえ今俺に喧嘩売ったな?やる気かこら!」


オーディンににじり寄るコハクの腰にラスが抱き着き、わき腹をこちょこちょとくすぐった。


「こらっ、チビ、やめろって、こーらー!」


コハクと真向かいになって抱き着くと、ラスがそうやって暖を取っていることを知ったコハクはラスを抱っこして颯爽とドラちゃんの背中に飛び乗った。


「ドラ、全速力で飛べよ。チビが風邪引くだろが」


ゴールドストーン王国に着くまでの間にラスの身体は芯まで冷えて、もちろんティアラたちもそうだったのだがそういうのはお構いなしの魔王は背中からラスを抱きしめながらフードを目深に被らせた。
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