魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その夜、階下にあてがわれたティアラの部屋に珍客が訪れていた。


「リロイ…どうしたんですか?」


「申し訳ありません、こんな夜更けにレディーの部屋を訪れるなんて…」


暗闇にリロイの金髪だけが浮かび上がり、ティアラはガウンを着直しながら部屋の中へと招き入れ、暖炉の前にあるソファに座らせた。


「いいんですよ、気にしないで下さい。で、何か用なのでしょう?」


ざっくりとした編み込みの白いセーターに濃紺のジーンズ姿のリロイに性懲りもなくどきっとしながら隣に座るとしばらく沈黙が続き、ティアラは促しもせずに2人きりの時を密かに楽しんだ。


「僕がこの王国を出る話をあなたにしましたよね」


「はい。やはり…その気持ちは変わらないんですか?」


「…僕にはまだ少しだけ、2人を見るのがつらいんです。でももう魔法剣に捉われたりはしません。1度出奔を決めたからには出ます。で、そちらの騎士団は実践は積んでいますか?」


正直言って自軍の現状をあまり知らないティアラが首を振ると、リロイは前のめりになって両の掌を見つめ、各国の騎士団に強い警鐘を鳴らした。


「魔物は減っていません。そして和睦を結んでいる各王国を攻めてくる国はありません。聖石があるから魔物が攻めてこないと安心していたら、いつか痛い目に遭います。だから僕は各王国を訪ねようと思っています」


「…あなたは2年間魔物と戦い続けていましたから、騎士団に教えてあげられることも多いでしょう。…私にアドバイスを求めに?」


――ティアラの真っ白な肌が暖炉の炎で照らされて、清純の乙女を汚してしまったことをまた後悔しながら一瞬見つめ合ってしまい、はにかんだ。


「最初はレッドストーン王国へ行こうかと思っています。あなたさえよければなのですが…」


瞬間ティアラがぱっと嬉しそうな顔をしたので、近い未来知らない男の花嫁になるティアラを支えてやりたいと思ったリロイは、そっとティアラの手を握った。


「嬉しい…きっと緋色の騎士団の皆も喜びます!」


「よかった。お役に立てるように努力します」


結婚に不安を抱いているティアラの心を少しでも癒してやれるように――
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