魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラが喜んでくれてほっとしたリロイは、いつものように少しだけ開けておいたドアを押して部屋の外へと出た。


「ラスには僕から話しておきます。…また駄々をこねられるでしょうが…手に負えなくなったら仲介をお願いします」


「ふふ、絶対手に負えなくなりますよ。リロイ、魔王に背中を見せないように気を付けて下さいね」


「はい。おやすみなさい、ティアラ」


黒ダイヤのような瞳が和らぎ、ドアを閉めて白騎士団の詰所兼宿舎を目指して長い廊下を歩いていると…どこからか話し声が聴こえた。

同じ並びにはローズマリーやオーディンが泊まっている客室もあるのでおやすみの挨拶でも言おうかと声のするオーディンの部屋へ寄ってみると…


『あなたが何者だかわかったわ、何でも屋さん』


『詮索無用だと言ったはずですよ。全く…困った人ですね』


オーディンの部屋からローズマリーの声が聴こえ、しかも込み入った話のようだったのでつい足が止まって盗み聞き状態になってしまったリロイは、息を詰めて少し開いたドアから中を覗いた。

すると窓辺に立ったオーディンの左目を隠している眼帯はなく、だが瞳は閉じられていて、ローズマリーが手を伸ばしてその左目に触れた。


「文献を見たの。私よりもコハクよりもずっとずっと長く生きているあなたがどうしてコハクに協力しているの?」


「とてもとても長い話になります。コハク様は“魔王”と呼ばれていますが、決してそのような存在ではないこと、師匠のあなたならよくわかるはず。私の右目にはコハク様の本質が見えています。あなたと同じくね」


「へえ、私がコハクを追い出した後の話…私はほとんど知らないわ。話して下さるかしら、何でも屋さん」


「いいですよ。じゃあ報酬にあなたの唇でも…」


オーディンが冗談を言った矢先…ローズマリーが背伸びをしてオーディンの唇を奪った。

リロイは声を上げそうになって両手で口元を押さえると、最初は驚いていたオーディンだったが、ローズマリーの腰を支えて引き寄せると、舌を絡めたなんとも激しいキスに突入。


今日ティアラたちと賭けをしたばかりのリロイは顔を赤くしながらそっとその場を離れ、頬をかいた。


「あちこち…大変だな」
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