魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハクと会えなかった2年間の間、心の拠り所となってくれたのは…グラースだった。


反対方向へ歩いて行くグラースを目敏く発見したラスは、歩み寄って来るコハクの脇をすり抜けて行こうとして、腕を掴まれた。


「おいチビ、どこ行くんだよ」


「グラースのとこ!コーはその辺うろうろしてていいよ!」


「…」


常に自分が1番でありたいコハクがガン無視して目を合わそうともしないラスの手を仕方なく離すと、ラスがグラースのマントを握って見上げ、2人はまるで姉妹のように見えた。


「どこに行くの?私も一緒に行く!」


「魔王と一緒に居た方がいい。ラス、何かが街を走り回ってるんだ。危ないから…」


「じゃあ3人で行こ。ね、コー、いいよね?」


「3人でかー。…イイ!まあしょうがねえから愛人位にはしてやっかー」


「?なんのお話?」


「おっと。別にー」


――グラースにはもちろん意味はわかっていたのだが、そういえば魔王は出会った時からちょっかいを出してくることはなかった。

最初のうちはどうにか自分をやり込めようと無理矢理キスをしたりしてきたが、旅を共にしてからしばらくして気が付いた。


見定められていたのだ、と。

ラスを守り、そして信用できる者であるかを見定められていたのだ。


「愛人か。前にも言ったが、お前は私のタイプじゃない」


「お前はいい女だけど、チビには負けるな」


「私だって昔はラスみたいに可愛かったんだぞ」


「証拠見せろ!ほんとだったら愛人に…」


「だからお前は私のタイプじゃない」


「わあーっ、お花が生き残ってる!冬眠してたのかな、大丈夫かな、コー、どう思うっ?」


…これまでの会話の流れをぶった切ったラスが2m四方の小さな家の隣にあった花壇の前に座り込んだ。

8枚の花弁をつけた花が土の上に倒れていて、コハクはすぐさまセイレーンとノームを呼び寄せると、土を活性化させ、温かい風を送り、その辺に転がっていた茶色の植木鉢に素手で移し替えた。


「コー、手が…」


「俺の手が魔法の手だって言ったのはチビだろ?さ、元気になれよ」


土からは、生きている匂いがした。
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