魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
魔王から逃れられるわけがない。

付き合いの浅いティアラでもそれはわかる。

現にローズマリーがコハクを部屋に招き入れ、唇がとがり、ふてくされた表情のコハクは布団に頭を隠し、お尻が出ているラスを見つけると、みるみる笑顔になった。


「チビー、捜したぞ」


「今日はコーとは一緒に居たくないのっ。あっち行ってて」


「やだね。俺から逃げられるのか?ん?こら、言ってみろ」


ベッドに歩み寄り、ラスのお尻をこちょこちょとくすぐると、脚がばたばた動き、手がにゅっと出て来ると、コハクの手をつねった。


「ラス、そろそろタイムリミットよ。そういうのが余計に魔王をコーフンさせてることに気付かなくちゃ」


「へえ、ボインもよくわかってんじゃん。ほらチビ、行こうぜ。なんもしねえって。約束すっから」


「…ほんと?」


疑いつつも問うてきたラスに対し、魔王がにたりと笑った。

その何ともいえない笑みを見たローズマリーとティアラは肩を竦め、それが嘘であることを見抜いたが、そっと部屋を出た。


「ほんとほんと。あのさあ、今ベルルの仲間たちが協力してくれて屋上の花の蜂蜜を採ってんだけど見たくねえか?」


「えっ?行く!行きたい!」


「だろ?行かせてやっから来いよ」


自分の台詞ににやにやしつつ、今回は意味を悟らなかったラスにコーフンしつつもとびきりの笑顔を浮かべると、ようやくもそっと出て来たラスの髪は跳ねまくり、腕を伸ばしてきたので抱っこすると髪を撫でてやった。


「俺が年中やらしいこと考えてると思ったら大間違いなんだからな。俺はチビの幸せだけを考えてんの。それが俺の幸せ!」


「だって…毎日…してるでしょ」


「だってガキ欲しいし。チビそっくりの娘が欲しいし。城中ガキたちが走りまくってひっちゃかめっちゃかなってるの見てえし。おむつ替えてえし。お風呂入れてえし。ぜーんぶ楽しみにしてんだから毎日すんの当たり前だろ」


…なんだか言いくるめられている気がしたが、ローズマリーの言う通り、コハクが家族を望んでいるのはよく伝わってきた。


コウノトリが子供を運んでくれるわけではなく、この身に宿る命――

それを運んでくれるのは、コハクなのだ。
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