魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「ねえコー、ベルルはどこに行ったの?お使いってどこに?」


涙が引っ込むとラスと真向かいになり、腕に抱き込みながらも、慎重にならなければならない案件を遠回しに口にした。


「や、協力者たちを迎えに行かせたんだ。ほら、旅に使った馬車があるだろ?あれで迎えに行かせたから明日はここに着くと思うぜ」


「協力者?私も知ってる人たち?」


「ああ、そうなんだけど、気にすることじゃねえし。それよかチビ、一緒に蜂蜜集めるか?服着せてやるよ」


ラスは一通りなんでもできるようになっていた。

だが、自分と一緒に居る時だけは、何もしない2年前のラスに戻ってくれる。

現に自分でドレスを着ずに起き上がってにこにこしているラスの真っ白な身体に見惚れながらも、まずは自分が服を着て、その後甲斐甲斐しくラスにドレスを着せるとさっき妖精が手渡してくれた小指ほどの小さな壺を掌に乗せると指を鳴らした。


するとラスが抱えれるほどの大きさになり、ラスを抱っこすると、満開になり、今にも花弁から蜜が零れ落ちそうな金色の花の茎を持って傾けると、とろりとした蜂蜜が溢れてきた。


「美味しそう!コー、沢山集めよ!」


「危ねえからちょろちょろすんなよー」


小さなキスを交わしてまた寝転がると、ラスがウサギのように跳ねながら満開の花に負けない輝く笑顔で蜂蜜を集める様はコハクの目を楽しませた。


「…琥珀、ね。お師匠はそこまで考えたかな」


――名を与えてくれたのは、ローズマリー。


拾ってくれた時から真っ赤な瞳だった自分を見た時、“この名前しかないと思ったの”と言った。


ラスは…わざわざ自分の名の意味を調べてくれて、一生懸命伝えてくれたその気持ちがとても嬉しくて、意識をラスから逸らさず、はにかみながら瞳を閉じた。


――その2人の屋上での逢瀬――

実は盗み見していた者が居た。


「まさか女に溺れて弱くなった…そんなことはないですよねえ」


…カーテンを引いた暗がりの部屋の中…ベッドに横たわりながら、隻眼の右目には、その光景が映し出されていた。


「私が知っているあなたは強かった。今も、そうと言えますか?」


死と戦争を司る者が、牙を剥く――
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