魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
グラースがクリスタルパレスから馬を駆って帰ってきた時、誰よりも敏感にそれを察知したのは、屋上に居たラスだった。


「あっ!グラースが帰ってきた!下に行かなくちゃ!」


「待て待て待て待てチビ!もうちょっといちゃいちゃしてえし」


「後でねっ。コー、手を離してっ」


「やだねー」


思えばグラースと出会った時からべったりだったラスは、グラースを姉のように慕っている。

それに2年間もずっと傍に居たのだから、その信頼度たるや…自分以上かもしれない。

人であれ魔物であれ、物であれ、何にでも嫉妬できる魔王が手を離さずにいると、唇を尖らせたラスが少し先のとがったヒールで魔王の腹をぎゅっと踏んだ。


「いでっ!でも気持ちい………やべえ、また禁断の扉を開きかけ…」


「行って来るねっ」


長い金の髪を翻して屋上から居なくなったラスをもちろん独りで行かせるわけがなく、のそりと起き上がると欠伸をしながらラスから少し離れて後をついて行った。


そして1階正面の大ホールには、あちこち擦過傷を負ったグラースがもごもごと動く袋を右手にラスの頭を撫でていた。


「グラース怪我してるっ。ティアラを呼んで治してもらおっ」


「この程度ならすぐに治る。魔王、これを」


「ああ、すばしこいのによく捕まえたな」


「ラス、凶暴だから近付かない方がいい」


袋を手渡されたコハクが無造作に袋の中に手を突っ込み、フローズンという水色の氷属性の魔物を引きずり出した。


「ぴぎっ」


「よう、元気がいいな。ちぃっと改造させてもらうぜ」


眼前まで持ち上げてにたりと笑うと、手足をばたつかせていたフローズンがぴたりと抵抗を止めた。

…コハクの赤い瞳にはいつも魔力の波がたゆたっている。

魅了、恐怖、畏敬…

誰もがこのうちのどれかを感じるのだが、唯一例外は…ラスだけだ。

ラスには何故か通じず、コハクの腰に抱き着くとフローズンの頭に手を伸ばした。


「おい、食いついたらばらばらに解体すっからな」


「ぴ…」


「コー、楽しそう」


「チビもついて来いよ。改造見せてやるよ」


誰にも見せたことのない作業を。
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