魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
悪い魔物を良い魔物に――

はじめてコハクが成し遂げた奇跡のような改造を見ることができると知ったラスの顔は瞬時に輝き、コハクはラスを抱っこすると指を鳴らし、近くに居た牛柄の魔物を呼び寄せた。


「その傷見てるとチビが痛がるからボインに治してもらえ。俺はチビ専用だから駄目!こいつに案内させる」


「わかった。間違ってラスを改造するなよ」


「改造しなくても俺好みだしー。じゃあまたな」


螺旋階段を下りて地下へ向かう途中、いつもつかず離れずのオーディンの姿がないことに気付いたラスが口を開こうとすると、心を読んだかのようにコハクがそれを口にした。


「オーディンの奴は放っておいていいんだ。元々ひとつの場所に長く留まる奴じゃないしな。干渉しないことにしてる」


「ふうん…仲良しなのに?」


「別に仲良くはねえよ、あいつが勝手に傍に居るだけだし。それに、なーんか……まあいいや、ほらチビ!お望みの眼鏡だぞー」


コハクが手首をくるりと回すと、何も持っていなかった手には縁なしの眼鏡が。

髪を縛り、眼鏡をかけたコハクはなんだか違う雰囲気で、少し照れたラスが首に抱き着くと、魔王…にやにや。


「どした?やっぱベッドの上の方がいいか?」


「もぉっ!やだコー!馬鹿!ヘンタイ!」


「何おう!?そんな言葉どこで覚えた!男はみんなヘンタイなんだぞ」


妙な理屈を展開させつつ、分厚い鋼鉄の扉を押して中へ入ると、ラスのお腹の上に乗せていたフローズン入りの袋がばたばたと動いた。


「怖いのかな…コー、この子怯えてるみたい」


「すぐ済むって。改造が済んだらうちの奴らのペットにしてやろう」


“うちの奴ら”とはコハクが改造していた魔物たちのことで、親しみのあるその呼び方にラスの顔に笑みが広がると、そういうのは恥ずかしがる魔王はラスを腕から下ろし、袋を肩に引っさげた。


――コハクの背中を追ってちょこちょこ歩きながら、難しいタイトルのついた分厚い本が沢山詰まった本棚や手術台のようなものを眺めながら、細いが頼りがいのある背中を見つめた。


「早く赤ちゃん…欲しいな」


「ん?なんか言ったか?」


言うと調子に乗るから、内緒。
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