魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ティアラはクリスタルパレスの復興を疑っていなかった。

あの魔王が“半年でやる”と言ったのだから、間違いなくやり遂げるだろう。

それにラスが傍に居て励ましてやれば、100万馬力のはず。


「あっ、ティアラ!オーディンさんから呼ばれて来たよっ」


いつも朗らかで笑みの絶えないラスと再会した場所は、エプロン姿の魔物たちがうろうろと歩き回るキッチン。

ティアラ自身も白いエプロンをつけて何かをこねていて、ラスが腕に抱き着いてくると用意していた同じサイズのものを指した。


「一緒にクッキーを作りましょうよ。きっと魔王も喜ぶと思うわ」


「うん、わかった!ティアラはリロイに作ってあげるの?ね、そうなんでしょ?」


――実はさっきリロイの部屋を訪ねたのだが、ローズマリーと酒を飲んでいたので遠慮して声をかけずに来てしまった。

嫉妬はしなかったけれど、人見知りをするので、ちょっとだけ寂しかったのは事実だ。


「…食べてくれると思う?」


「うん、リロイは甘いもの好きだよ。チョコが好きだからチョコチップ入れよ」


グラースとの猛特訓の成果があり、たどたどしくはあるが料理のできるようになったラスは、魔王を想うあまりに慣れないことを今まで沢山してきた。


恋に目覚め、さらに綺麗になり、結婚に向けて順風満帆のラスは…羨望の対象になってしまっていた。


楽しそうにハート形の型にくり抜いているラスの横顔を見つめていると目が合い、慌てて瞳を伏せた。


「どうしたの?疲れちゃった?フィリア様に会えなかったの?」


「お母様にはお会いできたし国民もクリスタルパレスに興味を持ってくれたけど…私…リロイのことが気になって…」


――ティアラとリロイが1度だけ深い仲になったことをラスは知っていた。


自ら体験してわかることだったが…身体を重ねれば、心も自然に重なり合う。

それにリロイは白騎士だし、生半可な興味本位などでティアラを抱いたわけではないだろう。


頬を桜色に染めるティアラにきゅんとしたラスは胸を張り、ティアラの頬にキスをした。


「リロイもティアラのこと気にしてると思うよ。ね、沢山作ろ」


励ますと、ふわりと笑ってくれた。
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