魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その甘い匂いにほいほいと誘われたのは…魔王だった。


ラスを捜してぶらぶら城内を歩き回り、甘い匂いを嗅ぎつけると早足になり、キッチンでラスを見つけた時には有頂天。


「チビからいい匂いがする!」


「クッキー作ってたの。コーの分もあるよ」


「俺はクッキーよりもチビを食い…」


「やめて!私の居る時に変なこと言わないで!」


ティアラが頬を染めて抗議し、奥ゆかしく奥手のティアラをからかいたい魔王は、オーブンの前で焼き具合をじっと見つめているラスを確認すると、腕組みをしながらティアラの隣に立ち、腰を屈めた。


「お前からもいい匂いがするぞ。美味そうだな」


「やめてヘンタイ。浮気なんかしたら絶対に許さないわよ」


ぎっとコハクを睨みつけたが、すぐ傍にある赤い瞳は相変わらず不可思議な効力を持ち、ぐらりと眩暈がした。


「浮気なんかするかよ。俺はチビ一筋だからな」


「嘘を言わないで。2年前はラスに隠れて散々…」


「今はチビを手に入れた。あいつらは所詮チビの代わりだったのさ」


こそりと耳元で囁かれて背筋がぞくっとすると、コハクはさっとラスの隣に移動して早速抱っこし、ラスに鼻を寄せて嗅ぎまくっていた。


「マジいい匂いがするし。これ俺が全部食っていいんだろ?」


「駄目だよ、リロイやオーディンさんたちや魔物さんたちにも食べてもらうの」


するとキッチンにいた5匹の魔物が一斉に振り向いて喜び、コハクの唇がへの字に曲がった。


「コーにはまたコーにだけ作ってあげるから。ねっ」


頬にちゅっとキスをされてご機嫌度が増した魔王は呆れ返った顔で椅子に座っていたティアラの隣にラスを姫抱っこしたまま座った。


「小僧にやるんだろ?お前らさあ、そろそろくっつけよな。鬱陶しいんだよ」


「!お、お前にそんなこと言われる筋合いはないわ!」


詰られても文句を言われても平気なコハクはラスの口にせっせと苺を運んでやりながら鼻で笑った。


「私は…結婚するんだから。王国のために」


「自分で自分を殺すのか。へえ、まあそういう生き方もあるかもな」


――ラスのように、生きたかった。
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