魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
スノウたちがラスの部屋でコハクに会えた喜びを噛み締めていた時…

魔法の馬車がラスのバルコニーで止まったのを見ていたグラースが彼女たちに会いに部屋を訪れた。


「あなたは誰?」


「私はラスの護衛だ。レイラ、久しぶりだな」


「ええ、お久しぶりです。私…コハク様がかけた魔法が解けたの。コハク様じゃない人と結婚して…私…」


「そういう話は聞きたくない。いいかよく聴け」


――無表情のグラースの美貌は冴え冴えとしていて、ラスと同じグリーンの瞳はすうっと細くなり、彼女たちに警告をした。


「魔王はお前たちのことなど気にも留めていない。お前たちに敬意は払うが、ラスを不安にさせるような言動は振舞うな。いいな、約束しろ」


「…わ、わかったわ」


凄味のある眼差しに気圧されたスノウが返事をすると、グラースはそのまま部屋を出て行った。


…わかってはいたことだが、いざ現実を目の前に叩き付けられると…参ってしまう。

現にコハクに協力を求められ、浮かれてここまでやって来たが…


ラスを見つめるあの赤い瞳は限りなく優しく、限りない愛しさに満ち溢れている。

そしてまたラスは2年前以上に綺麗になり、大人っぽくなった。


「…引き裂こうなんて思ってないわ。私はただ…コハク様にお会いしたかっただけ」


エリノアがぼそりと呟いた時、ラスを抱っこしたコハクが戻って来た。

そしてベッドにラスを下ろすとタオルで甲斐甲斐しく濡れた髪を拭いてやり、またコハクの髪は濡れたままで、真っ黒な髪をかき上げるとスノウたちを見つめた。


「こ、コハク様…」


「チビが話したいことがあるっていうから聴いてやってくれ。な、チビ」


「うん…頑張る」


オールバック風のコハクは止めどない色気に溢れ、スノウたちは胸を締め付けられながらもソファに座り、ラスの言葉を待った。


「ほら、チビ」


「うん。私…さっきはごめんなさい。またみんなと仲良くしたいの。だから協力してください。お願いします」


――相変わらず素直なラスに笑みが零れたが…

それとこれとは別の話。


気持ちは、抑えられない。
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