魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスのご機嫌が斜めになった原因はもちろん知っている。


だがコハクにとってそれは…嬉しいことだった。

惚れた女にやきもちを妬かれているのだから、ラスの口からそれを聴き出したくて、グラースから譲ってもらった隣室に入ってラスを下ろすと一目散にバスルームに逃げ込まれた。


「おーい、俺の天使ちゃーん、開けるぞー」


「やっ!あっち行っててっ」


ぷんすかな声が聴こえて口元がにやけてしまうと、そおっとドアを開け、ガウンを脱いだラスの細くて真っ白な身体を背中から抱きしめた。


「仲良くするって約束したろ?あんな態度じゃスノウたちが気にするぞ」


「…どうしてスノウたちなの?どうしてスノウたちじゃなきゃ駄目なの?」


「人心を引き付けるには見目の良い奴が沢山居た方がいいんだ。そういう点じゃあいつらは申し分ないだろ?チビ、俺がまたあいつらをどうこうすると思ってんのか?そりゃ俺に対する侮辱だぜ。俺はチビ一筋なんだぞ」


「だって…スノウたちがうっとりしてコーを見るから…いやなの。見てると…ここがずきずきするの」


2年前とは劇的に変化してしまった胸を押さえて身体を折り、うずくまったラスを抱っこしてシャワーの蛇口を捻り、服が濡れるのも厭わずにラスの泣き顔をシャワーの雨で隠してやった。


ラスは…まだ不安なのだろう。

いつかまた自分が消えてしまうのではないか、と。

いつかまた、離れ離れになる日が来るのではないか、と。


明るく振舞っていても、夜になるといつも聞いてくる。


“離れないで。約束して”と。


「…少しの我慢だ。何か月か居てもらえば、この街に人が集まってすぐ活性化する。チビ、それまでの我慢だから。俺がずっと傍に居るから」


「ほんと…?…私…スノウたちに謝ってくる。私…コーのお嫁さんになるんだから、こんなの平気にならなくっちゃ」


「そうそう、俺はモテるけどチビ一筋だから。そこだけはよーく覚えてけ。いいな?」


「うん…わかった」


身体に張り付いた服を脱ぎ、指を鳴らすと一瞬にしてバスタブに張った水がお湯になり、ラスを抱っこしたまま飛び込むと泡だらけにして全身をぴかぴかにしてやった。


不安なのは、こちらも同じ。
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