魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
「ローズマリーを迎えに行ってたんだ」


代わる代わる皆に頭を撫でられて慰められ、暖炉の前のソファに座らされたラスはずっとグラースの腕にしがみついていた。


どんなに心細い時もずっと傍に居てくれたグラースが1週間と言えど離れて行ったことが正直とても悲しかったけれど、

グラースが自分を想ってローズマリーに会いに行ってくれたことが嬉しくて、何度も首を振りつつ、ひとつの疑問に気付いた。


「でも…こんなに早く着けるの?馬車で何か月かかると思って…」


「世界の中央を分断しているライナー山脈を越えてきた。危ない旅だったがそのルートなら1週間でここへ戻って来れる」


「え…ライナー山脈?!神クラスの魔物も住んでいるから誰もあの山脈には近付かないのに…」


「グラースは強かったわよ。傷は私の薬草で治してあげられたけど…ラス、あなたのためにグラースはとても頑張っていたわ」


「うん…うん…!」


――身体はさらに細くなったが、2年前は幼い印象だったラスの表情は女らしくなり、美少女の域を超え、こんなラスを見たらますますコハクがコーフンしてしまう…と皆が思うほどにラスは綺麗になった。


それまでずっと黙って立っていたオーディンはコハクが切望し、渇望し、長年求め続けていた存在のラスの前で片膝を折ると、白くたおやかな手を取った。



「近いうちにあなたの前に使者が現れます。その使者がコハク様の眠る場所へと導いて下さるでしょう。あなたの祈りが届いたのです。あなたが毎日欠かさずこの2年間祈り続けたから、それが届いたんですよ」


「神様…神様って、本当に居るんだね…!オーディンさんはコーに会ったの?コーは元気だった?」


涙に濡れたくしゃくしゃの笑顔で見上げてきたラスは可愛らしく、ゆっくりと首を振りながらも思い出したくもないあの光景を語った。


「実はあの時私はコハク様の部屋を訪れていました。リロイという男に刺された直後です。お助けすることも適わず、コハク様は消えてしまった…。私はその意味と答えを求めて世界を旅していました」


「それで…見つけたの?」


「ええ。私の前に使者が」


その会話を立ち聞きする者が――
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