魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
まるで旅をしていた時のような光景だ――


コハクがやきもちを妬くからオーディンとはほとんど話ができなかったが、この男がコハクのために世界を回り、同じようにコハクを捜し続けてきたことがとても嬉しい。


「ラス王女、これを。そろそろ無くなってきた頃でしょう?」


ローブに手を突っ込み、ラスに差し出したのは…小瓶に入った蜂蜜と白の小さな袋に入れられた金色の花の蜂蜜で作られた飴。

大切そうに両手で受け取ったラスを見つめ、オーディンは預言者のように言った。



「あなたがそれをどう使うかがコハク様に再会できるかどうかにかかっています。あなたが正しい者なら、きっとお会いできる」


「…?わかんないけど…うん、頑張ります。コーと会いたいの。コーに抱っこしてもらいたいの」



皆が瞳を細め、かつてコハクがラスを歩かせないほどに腕に抱いて回っていた姿を回想し、ローズマリーが口元を手で隠しながら笑った。


「今のうちに沢山歩いておいた方がいいわよ。コハクと再会したらそれからはずっとまともに歩けないでしょうから」


「うん、わかった!」


――こつん。


オーディンが手にしていた杖が大きな音を立てて大理石の床を叩いた。


ラスが驚いてオーディンを見上げると、今まで穏やかに微笑んでいたオーディンが少し険しい顔で…険しい声で、入り口に向かって声を上げた。



「出て来なさい。出てこないと…このグングニルでお前を貫きますよ」


「…僕も、手伝います」



――姿を現わしたのは、今まで書庫に入れず立ち聞きをすることしかできなかったリロイだった。


急に無表情になったラスと目が合うと苦悩に揺れながら静まり返った書庫に入り、ラスの前で片膝を折った。



「ラス…君に笑顔になってほしい。僕の過ちを許してほしい。君が笑ってくれるのなら、なんでもする」


「…リロイ…」


「影が生きているのなら僕も協力する。いや、協力させてほしい。駄目?どうしても僕を許せない?」



手に入らないことはわかっていたのに――

少し期待をしてしまった自分自身を卑下し、俯いたリロイにラスがやわらかく抱き着いた。


和が、蘇る。
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