魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハクとの話し合いが終わってラスの元へ戻ったデスは、いつの間にか眠ってしまったラスの傍らに椅子を引き寄せて座ると前のめりになって顔を覗き込んだ。


「………君の運命は…」


目尻に涙が通った痕を見つけた。

さっきまであんなに明るかったのに、コハクの言うように不安の種を植え付けてしまったのは自分だ。

隣の部屋へ移動した後本を読んでいたのか…枕元には妊婦に関する本が数冊置かれていた。


己の役割は、人の命を刈り、冥府へ連れて行くこと。

トレードマークの大きな鎌を見ただけで人は命の終わりを悟り、時にもがき、時に受け入れる。

最高神に定められた役割を果たすため、どんなに命乞いをしても慈悲を持たず、鎌を振るってきた。


そして今目の前で眠っている女の子の運命は…



「………君は難産で苦しんで死ぬ。苦しみ抜いて生まれた子も…死ぬ。それが……君の運命だ」



――デスの穏やかに下がった瞳は、コハクの絶叫も、愛しい者を失って発狂する様もはっきりと見えていた。



『チビ!チビ!ああ、どうしてこんなことに…!死ぬなチビ!俺を置いて逝くな!』



もう瞳を開けない…もう笑わないラスの傍らでどんどん壊れてゆくコハク――

力が暴走し、ラスの亡骸を抱きしめて離さないコハクを止めるべくオーディンや自分が立ちはだかり、闇に染まった混沌とした世界が数年…十数年…数百年続いてしまう。


…そんな風になってほしくない。


だから…掟を破ろう。



「…………君の運命を、変えてあげる」



はじめて禁を犯す。

自分の意志で、命を助ける。

罰を受けるかもしれないが、優しくしてくれた女の子と、やわらかくなったコハクが壊れて行く様は見たくはない。


――椅子から立ち上がったデスはフードを背中に払いのけてラスの枕元に立った。


そして掛け布団を脱がせるとラスの身体の中心…腹に手を伸ばし、さっき初めてラスの腹に触れた時に感じたある気配に少しだけ、笑みを浮かべた。


「………黄色い鳥の加護が…。加護があっても…運命は変えられなかったのか。だけど……俺が助ける」


腹に翳した手から白い光が漏れ、降り注ぐ。

ラスの身体はやがて真っ白な光に包まれて、そしてデスも…


デスの姿も、変化した。


真白き者へと――
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